1-0 ひとめ惚れ
恋をするなら、ひとめ惚れ。
きっとそうだろう、と雷宮光は信じていた。
いつか王子様が、なんてメルヘンな域には達してないが、何の確信もなく、ただ漠然と思い込んでいたのである。
高校三年生の夏の終わり。それは突然に、雨と雷の日におとずれた。
少年は空を見上げていた。
ぽつりぽつりと落ちてくる雨。むらさき色の雨雲を憂うように、空を見上げている。傘は持っていない。
艶やかな黒髪、水晶玉のような瞳、白い頬は朱く上気している。
イケメン?
違う。そんな風に騒がれる男子を光は理解できずにいた。
外面が良くてちょっと愛想が良いくらいじゃ、ダメだ。内面から滲み出るような「良さ」がないと。彼は、たぶん、光が心のなかで描いていた理想そのものだったのだ。
夏服じゃ肌寒いくらいの気温だったが、光は、体温が高まっていくのを感じていた。
傘を開くのも忘れて彼の姿に見入る。
すらりとした体躯にまとうのは、自分と同じ学校の制服だ。でも、彼を見たのは初めてだろう。逢っていたら覚えていないはずがないから。
雨はますます強くなってきた。光はさすがに傘を開く。
少年は濡れたまま、微動だにせずいる。
なぜ雨に打たれているんだろう――?
当たり前の疑問がようやく浮かんだとき、辺りが一瞬明るくなった。
「……っ!」
雷だ。
閃光とともに、雨の勢いがますます増す。さすがにこれ以上はいられない。名残惜しげに少年を一瞥して全力で走った。
心臓がどきどきしている。
こんな気持ちは初めてだった。まるで生まれ変わったよう。
これが、恋――