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階段下は××する場所である  作者: 羽野ゆず
Interval02 読者への挑戦
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おまけのエピローグ

「ほんとうにお前がやったのか――?」

 押し殺した声で、大杉が問う。

 ギプスをしていない方の腕が小刻みに震えている。

「人を階段から突き落とすなんて……救護部が聞いて呆れる! 最低だお前は!」

「知ってるよ」

 自嘲めいた返答がされる。

 切れの長い眼のはしで、仲丸はアカネを睨む。

「……どうしても許せなかったんだ。野巻先輩が」

「どう、して……?」

 鋭い眼光にアカネは肩を震わせた。

「――知ってるんだろ!? 僕が……っ、田雲先生のことを……好きだってことを!!」

「ええええええっ!?」 

 あまりに衝撃的な告白だった。

 手で口を覆ったアカネが興奮ぎみに叫ぶ。

「BL的な生告白聞いちゃった!――じゃなくて、アナタが田雲先生に想いを寄せていたなんて、知らなかったのよ!」

 ほんとよ、と念押しをしてくるアカネに、仲丸は鼻白はなじろむ。

「嘘だ。僕の気持ちを知ってるくせに、わざと目の前で先生とイチャついたり、翻弄ほんとうさせるようなことを聞かせたり。もう我慢の限界だったんだよ!」

「翻弄させるようなことって、もしかして水無月くんと先生が"デロデロベッチョン"の関係だ、とか言ったこと?」

「なんですそれ!?」

 日向が悲鳴を上げる。もうメチャクチャだ。

「冗談よ冗談。仲丸くんを傷つけるつもりは一切無かったの。……ごめんなさい」

 腰まで届く明るい髪を垂らして、頭を下げるアカネ。

 仲丸は居心地悪そうにそっぽを向いた。やがて、体の奥から絞り出すように言う。

「……やり過ぎたってことはわかってます。許してもらえるとは思ってません。でも、すみませんでした」

「仲丸くん」

 田雲が近づいてきて、その肩に手を置く。

「救護部に入る理由を、君はこう教えてくれたよね。ケガの処置を受けたとき、僕の接し方に感動したからだって」

「…………」

 仲丸は身を震わせてうつむいた。

「皆も聞いてくれるかな」

 黒縁眼鏡の奥の目で、救護部員たちを見まわす。

「これから僕が顧問として、君たちに指導する内容についてだけど。それは知識や技術だけじゃない。一番大事なのは、傷ついた人を勇気づけて安心させることなんだよ」柔和な声音で続ける。

「救急法は、その名のとおり、救急時の対応を学ぶものだ。でも、普段から人を気遣う優しさを忘れないでほしい。――そうでないと、緊急時に誰かを勇気づけることなんて出来ないから」

 救護部員たちは真っ直ぐな瞳で顧問を見つめて、それぞれに頷いた。

 もう仲丸を責めようとする者はいなかった。



 一足先に旧校舎を出た、アカネと日向。そして、三度みたび呼び出された田雲。

「日向くん」

 曇り空の下を三人並んで歩いている。

「手は大丈夫かい?」

 尋ねられた日向はテーピングの指をグーパーして、

「痛むけど平気です」

 結局、今回の事件での唯一の負傷者は彼だった。

「――でもね、アタシ感動しちゃった」

 無傷の被害者・アカネが両手を組んでうっとりする。

「先生が話してくれたこと。『救護は知識や技術だけでなく、人を勇気づけることである』って。なんかぁ、先生の愛を感じるっていうか」

「まさにそうだよ」

 田雲は柔らかく微笑む。

 白衣のポケットに手を入れて、前を向いたままいう。

「人を助けるっていうことは、人間愛に基づく行動だからね」

「――なにをエラそうなこと言ってるんだか」

 背後から飛んできた横柄おうへいな発言に、彼らは揃って振り向く。

 ポニーテールに猫目の少女が、腕組みをして立っていた。

ひかる、どうしたの!? 今日は塾だったんじゃ」

「日本史の講師が休みで、早く終わったんだよ」

 雷宮らいきゅう光は、ふん、と蔑むような表情を田雲に向ける。

「おまえが養護教諭になったのは、家の道場を継ぎたくなかったからだろ。なあ、政宗?」

「相変わらず手厳しいなぁ……」

 というわりに、板についた笑みを崩さない田雲。

 仏頂面ぶっちょうづらVS笑顔仮面。ピリピリした無言の応酬がされる。

「ねえ」

 アカネが日向にささやく。

「あのふたりって、過去に何があったのかしら?」

 事件の謎を解いたのが嘘のように、頼りない様子で「さあ」と日向は首をかしげた。

「野巻先輩も知らないんですか?」

「まあ、ね」

 親友といえど、大好きな人といえど。まだまだ知らないことは多い。

 もちろんアカネにだって秘密はある。謎は日常生活にも蔓延はびこっているのだ。

 でも、と思う。高校生活もあとわずかだし、そろそろ打ち明けて、打ち明けさせてみようか――?


「ねえ、これから保健室でお茶会でもしない?」

 

 密かな決意を固めて。

 アカネは光と田雲に走り寄って、ふたりの手を同時に握った。



(end)

お読みいただきありがとうございます。

エピローグが何だかグダグダですみません。

よかったら、ブクマ、評価、感想などなどお待ちしています。気づいた点等もまだまだお待ちしております。


というわけで、解答編でした。怖々。

問題編に頭を悩ませていただいた皆々様に、心よりお礼申し上げます。

読者様から推理をいただくことが、これほどに嬉しくありがたいことだと思いませんでした! 大感謝。

解答編に疑問や矛盾を発見された場合は、遠慮なくご指摘くださいませ<m(__)m>


以下、ちょっとだけ反省文を。(ネタバレ含みます)


《装置を使ったのが誰か――?》

こちらは皆様、余裕で辿りつかれたようです。

作品の出来を上回るトリック案までいただき、脱帽。


《犯人を絞る根拠》について、

〈身長〉に着目され、さらに、双子が犯人であれば《毛氈》を選んでいたはず――というパーフェクト推理をされた方が、一名いらっしゃいました。完敗です!

が、作者は幼い頃からお雛様に親しんで育ちましたけど、そうじゃない方にとっては、『《毛氈》がどういうものか』――イメージが湧きにくかったのでは……とも思います。ここがアンフェアだったと。

また、へんてこなカラクリ〈装置〉を登場させたこと、安易に算数の力を借りたのではないかということ――これらがご都合主義だったとも反省しております。

次回【読者への挑戦】を作る機会があれば、以上の反省点をクリアしたいです。

読者さんへの感謝をいつもより強く感じた【読者への挑戦】章でした。

本当にありがとうございました。(2016.4.8 羽野ゆず)


(2016.5.11追記)

荷物の降ろし方について、『箱の一つを装置に置き、もう一つを持って装置に乗ることはできないか』とのご指摘をいただきました。

なんて単純明快な別解でしょう! グウの音も出ません。そのとおりでございます。


※引き続き、お気づきになった矛盾やご意見をお待ちしております<m(__)m>

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