イラスト(いただきもの)2
またまたイラストをいただきました。神祇官十七夜様(ID:1260770)からです。
本編のヒロイン・雷宮光です。
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これは――!
ちょっと小生意気な感じで、作者のイメージぴったりです!!!
猫目だ! 制服も可愛い~。
神祇官先生、素敵なイラストをありがとうございました。
以下、記念にSSを執筆いたしました。
平成30年4月、リアルタイム設定です。
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「はぁああ」
地獄の底から響くような溜め息をついたのは、野巻アカネである。
進級履修オリエンテーションが終わり、会場の60番講義室から学生たちが逆流してくる。足を止めても邪魔にならないところまで進み、ラウンジに着いたアカネはまた嘆息した。
「とうとう三年生になっちゃった……」
「なんだその落ち込みようは。めでたいことじゃないか」
観葉植物のベンジャミンを囲むように配置されたベンチのひとつにアカネを座らせ、自分も横に腰を下ろしてから雷宮光が言う。
「めでたくないよ! だって、光と離れちゃう」
工学部の光は、三年生から実習棟と呼ばれる別校舎での講義がメインになる。実習棟と本校舎は地下鉄二駅分の距離があるのだ。
「大げさだな。空いた時間に、演劇サークルに顔を出すよ」
「一緒に通えないってだけで寂しいのよ」
二十歳を過ぎたというのに、小学生のようなことをもらす経済学部生のアカネ。そういえば、と浮かない表情をいったん引っ込める。
「よかったね。水無月くん、無事に受かって」
「結構やばかったらしいけどな」
ポニーテールの毛先をいじって、光が薄く笑う。
二学年下の恋人、水無月日向は今春、この黒志山大学に合格した。
試験会場までの道すがらトラブルに巻き込まれ、あやうく受験し損なうところだったらしいが、それでも合格したのだから快挙といえよう。
「――で、一緒に住むんでしょ?」
1の次は2です、とでも言うように、まるで当然のことを確かめるようにアカネが聞いてきた。途端、光の凛としたクールな雰囲気を不機嫌オーラが覆いはじめる。
「同棲はしない。日向は自宅から通うって」
「ウソでしょ。両親も公認の仲なのに」
光だって、そのつもりだった。
合格発表の日、日向の受験番号があるのを発見してすぐ、「いつ引っ越してくるんだ?」と嬉しさを抑えきれずに迫った。光が今、一人暮らしをしている部屋か、それとも別に二人で借りるか、どちらにしようか。そういった意味で。
ところが日向は呆けたように、「えっ? 家から通う予定ですけど」と答えやがったのだ。ぬけぬけと。ひどい裏切りを受けた気分になった光は、以来、彼とまともに会話をしていない。
「良かったんだ、これで。実際、一緒に暮らしていたら大変だったろうし」
「大変? なにがよ」
「アイツ、朝はギリギリまで寝てるし、休みの日はいつまでも寝間着のままだし、布団の上でお菓子を食べながらゲームやるし、食べた後は注意しないと片づけないし、寝言は気持ち悪いし!」
「……光」
やけになってまくし立てる光を止めようとするアカネ。しかし流れ出たグチは止まらない。
「とにかくだらしがないんだ。ああ、やっぱり良かったなぁ、同棲しなくて」
「そんなに不満があるなら、アタシにちょうだいよ」
「は?」
「水無月くん。前からいいな、と思ってたんだ。中身は変わってるけど、外面は良いし、素直で可愛いし」
あ然としてアカネを見つめていた光は、「ねっ、いいでしょ」と強く迫られると、目を見開いて、
「バカなこというな。駄目だよ、ぜったいに!」
大声で怒鳴った。
アカネが下を向いて肩をふるわせている。え? 不審に思った光が顔を上げると、ほんの三メートル先、ベンジャミンの葉っぱに隠れるように、水無月日向がたたずんでいた。
なんたること。全然気づかなかった。
新入生オリエンテーションが終わってまっすぐ来たのだろう、大きな封筒を抱えている。今のやり取りを耳にしていたに違いない、いたたまれないような様子である。
光は、ようやく悟る。アカネにしてやられたのだ。仕掛け人は、「どろん」と叫び、爆笑しながら逃げていった。
「光さん」
日向がおもむろに口を開く。
「何だよ。さっきのことなら、全部本当のことだからな」
悪びれずに、つんと顔をそらす光。
周囲の学生たちに興味深げな視線を向けられている。日向は、そそくさと光の傍に座った。
「あの。ごめんなさい、一緒に住めなくて」
「いいよ、そのことなら、もう」
「僕、家事が全くできないから光さんの負担になるって、母さんに反対されて。だから、もう少し色々とマシになったら、一緒に……。でも、さっきの」
日向は急に口ごもると、頬を赤らませて口元をゆるませた。
「『駄目だよ』って。嬉しかったです、僕」
「あれは――」
冗談だよ、と返そうとして、無駄なことに気づく。
さっきのことなら全部本当のことだ、と言ってしまっていたからだ。
ああ、もうっ! 新年度がはじまったばかりの大学構内で、光はふくれっ面のまま、なんとも居心地の悪いひとときを過ごすはめになった。
(end.)
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ちょろっと大学生編でした。
ちゃんとした本編もいつか更新したいです。実はじつは――先日、イラストをいただいた角増エルさまから、大学編の日向のイラストもいただきました。
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大人っぽくなったね!