表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段下は××する場所である  作者: 羽野ゆず
登場人物紹介など
3/162

イラスト(いただきもの)2

またまたイラストをいただきました。神祇官十七夜かんなぎかなぎ様(ID:1260770)からです。

本編のヒロイン・雷宮らいきゅうひかるです。

挿絵(By みてみん)


これは――!

ちょっと小生意気な感じで、作者のイメージぴったりです!!!

猫目だ! 制服も可愛い~。

神祇官先生、素敵なイラストをありがとうございました。


以下、記念にSSを執筆いたしました。

平成30年4月、リアルタイム設定です。


+ + +



「はぁああ」

 地獄の底から響くような溜め息をついたのは、野巻のまきアカネである。

 進級履修(りしゅう)オリエンテーションが終わり、会場の60番講義室から学生たちが逆流してくる。足を止めても邪魔にならないところまで進み、ラウンジに着いたアカネはまた嘆息した。

「とうとう三年生になっちゃった……」

「なんだその落ち込みようは。めでたいことじゃないか」

 観葉植物のベンジャミンを囲むように配置されたベンチのひとつにアカネを座らせ、自分も横に腰を下ろしてから雷宮光が言う。

「めでたくないよ! だって、光と離れちゃう」

 工学部の光は、三年生から実習棟と呼ばれる別校舎での講義がメインになる。実習棟と本校舎は地下鉄二駅分の距離があるのだ。

「大げさだな。空いた時間に、演劇サークルに顔を出すよ」

「一緒に通えないってだけで寂しいのよ」

 二十歳を過ぎたというのに、小学生のようなことをもらす経済学部生のアカネ。そういえば、と浮かない表情をいったん引っ込める。

「よかったね。水無月みなづきくん、無事に受かって」

「結構やばかったらしいけどな」

 ポニーテールの毛先をいじって、光が薄く笑う。

 二学年下の恋人、水無月日向(ひなた)は今春、この黒志山こくしやま大学に合格した。

 試験会場までの道すがらトラブルに巻き込まれ、あやうく受験し損なうところだったらしいが、それでも合格したのだから快挙かいきょといえよう。

「――で、一緒に住むんでしょ?」

 1の次は2です、とでも言うように、まるで当然のことを確かめるようにアカネが聞いてきた。途端、光の凛としたクールな雰囲気を不機嫌オーラが覆いはじめる。

同棲どうせいはしない。日向は自宅から通うって」

「ウソでしょ。両親も公認の仲なのに」


 光だって、そのつもりだった。

 合格発表の日、日向の受験番号があるのを発見してすぐ、「いつ引っ越してくるんだ?」と嬉しさを抑えきれずに迫った。光が今、一人暮らしをしている部屋か、それとも別に二人で借りるか、どちらにしようか。そういった意味で。

 ところが日向は呆けたように、「えっ? 家から通う予定ですけど」と答えやがったのだ。ぬけぬけと。ひどい裏切りを受けた気分になった光は、以来、彼とまともに会話をしていない。


「良かったんだ、これで。実際、一緒に暮らしていたら大変だったろうし」

「大変? なにがよ」

「アイツ、朝はギリギリまで寝てるし、休みの日はいつまでも寝間着のままだし、布団の上でお菓子を食べながらゲームやるし、食べた後は注意しないと片づけないし、寝言は気持ち悪いし!」

「……光」

 やけになってまくし立てる光を止めようとするアカネ。しかし流れ出たグチは止まらない。

「とにかくだらしがないんだ。ああ、やっぱり良かったなぁ、同棲しなくて」

「そんなに不満があるなら、アタシにちょうだいよ」

「は?」

「水無月くん。前からいいな、と思ってたんだ。中身は変わってるけど、外面は良いし、素直で可愛いし」

 あ然としてアカネを見つめていた光は、「ねっ、いいでしょ」と強く迫られると、目を見開いて、

「バカなこというな。駄目だよ、ぜったいに!」

 大声で怒鳴った。

 アカネが下を向いて肩をふるわせている。え? 不審に思った光が顔を上げると、ほんの三メートル先、ベンジャミンの葉っぱに隠れるように、水無月日向がたたずんでいた。

 なんたること。全然気づかなかった。

 新入生オリエンテーションが終わってまっすぐ来たのだろう、大きな封筒を抱えている。今のやり取りを耳にしていたに違いない、いたたまれないような様子である。

 光は、ようやく悟る。アカネにしてやられたのだ。仕掛け人は、「どろん」と叫び、爆笑しながら逃げていった。

「光さん」

 日向がおもむろに口を開く。

「何だよ。さっきのことなら、全部本当のことだからな」

 悪びれずに、つんと顔をそらす光。

 周囲の学生たちに興味深げな視線を向けられている。日向は、そそくさと光の傍に座った。

「あの。ごめんなさい、一緒に住めなくて」

「いいよ、そのことなら、もう」

「僕、家事が全くできないから光さんの負担になるって、母さんに反対されて。だから、もう少し色々とマシになったら、一緒に……。でも、さっきの」

 日向は急に口ごもると、頬を赤らませて口元をゆるませた。

「『駄目だよ』って。嬉しかったです、僕」

「あれは――」

 冗談だよ、と返そうとして、無駄なことに気づく。

 さっきのことなら全部本当のことだ、と言ってしまっていたからだ。

 ああ、もうっ! 新年度がはじまったばかりの大学構内で、光はふくれっつらのまま、なんとも居心地の悪いひとときを過ごすはめになった。



(end.)


+ + +


ちょろっと大学生編でした。

ちゃんとした本編もいつか更新したいです。実はじつは――先日、イラストをいただいた角増エルさまから、大学編の日向のイラストもいただきました。


挿絵(By みてみん)


大人っぽくなったね! 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ