bonustrack ハグ・ミー?
水無月日向はおもちゃ屋が好きだ。
専門店に足を運ぶと、高校生になった今でも心が踊ってしまう。
子どもの頃はもっと沢山のおもちゃ屋さんがあった気がするけど、最近ではめっきり店舗が減ってしまった。これも少子化の影響だろうか。
親子で混みあう日曜日の店内で、日向は解せない。こんなに賑わっているのに……。
「ん~。クマじゃないんだよな」
子どもたちにまぎれて、ぬいぐるみコーナーで唸っているのは、スレンダーな体型の女子大学生。
背伸びしたりしゃがんだりして、陳列されているぬいぐるみを真剣な目つきで吟味している。
「光さん。僕、ゲームコーナーを見てきてもいいですか」
新作のゲームが入荷している頃合いだ。そわそわしている日向に、光はぴしゃりと言う。
「だめ。ここにいろ」
「えー……」
「犬。やっぱり、犬だな。うん、そうだ」
光の視線が、イヌのぬいぐるみと日向を忙しく行き来している。
「あの。何をしているんですか」
「日向と似たぬいぐるみを探しているんだよ。お前、黒目がちだから犬かなぁって」
「なぜ僕に似たものを?」
「いいじゃない。何を選ぼうが自由でしょ」
「……ですけどね」
はあとグマにまつわる件の罪滅ぼしのため、今度は光にぬいるぐみを選んでもらい、プレゼントしようと決めた日向であった。
光はしぶしぶながらも、「そこまで言うんだったら買ってもらう」とおもちゃ屋に付いてきてくれた。
「持ち運べるタイプじゃなくていいんですか」
「いいんだよそれはもう! うーん。チワワか……豆柴かトイプードルか」
「どれも似たようなものじゃ?」
「ばか、全然違うよ! 全国のワンコ好きに謝れよ」
「す、すみません」
そんなワンコ好きだったっけ?
日向は、彼女が時間をかけて厳選したぬいぐるみを購入し、店員さんにラッピングしてもらってから手渡した。
「ありがとう」
赤いリボンがついた包装紙ごと、嬉しそうに抱きしめる光。
どういたしまして。
……にしても、光がぬいぐるみ好きだったとは。意外な一面を知ってしまった。
いや、そうでもないか、と思い直す。
クールなイメージの彼女だが、実は、お姫様っぽい雑貨が好きなことを日向は知っている。ひとり暮らしをしている部屋の内装や服装に、その趣味が見え隠れしているし。
『光は中学までクマちゃんを抱いて寝てたんだよ』
いつだったか、野巻アカネがそう教えてくれたことがあったっけ。
持ち帰ったら、あのイヌのぬいぐるみと一緒に寝たり、着替えたり、お風呂に入ったり……?
いささか過ぎた妄想をして、何ともいえない気分になった。今も光は大事そうに紙袋を抱えている。
じわじわと日向をむしばんでいく感情。
それは、たしかに、嫉妬だった。
「あーもう……買わなきゃよかった」
「なんでだよ」
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