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満員電車の恐怖

作者: ぽんちょ

 都内の大学に通うオレは1限目から授業がある日が多い。今朝もラッシュ時の電車に乗ったところである。無論、満員電車だ。

 乗り継ぎ最後の電車で、いつものようにスマホをいじるオレ。たまたま目にしたネットニュースで死亡事故を目にする。

 しかしながら、狭い所で人があふれかえっている満員電車の中では、罪悪感を抱きつつ、このように思ってしまうことが多い。「こんなにも人がウジャウジャいるんだから、人がひとり、ふたり死んでもどうでもいいよ。どうせ、オレの人生に関わるようなヤツらじゃねぇし」。

 ところで、都会の人は他人に無関心だとよく言われる。たとえば、車内で物を落としたとしよう。田舎ではたいてい、誰なと拾ってくれるだろう。だが、都会では、そのようにはいかない。当たり前のことだ。

 そのようなことがオレの頭を横切った瞬間、「キャー!」と悲鳴の後に「チカンよぉーー!」と女性が叫ぶ声が聞こえた。人に無関心だと言われる都会であるが、そのときは違った。皆、一斉に声が聞こえた方向へ振り向く。オレも反射的にそうした。

 叫んだ女性は、おそらく五十代くらいの女性。はっきり言って、どこにでも見かけることができるブスのおばさんだった。どうせ、売れ残ってしまった女だ。「自意識過剰じゃねえの?」とオレは思った。周りも、どうやらそのように感じているらしい。あの冷ややかな視線がそれを表していた。

 「~まもなく○○○です。出口は・・・」と自動アナウンスが聞こえた。降りなければならない。人ごみの中、急いで電車から降りた。さっきのことが気になりつつも大学へと向かうオレ。



 今日は、いつもと何も変わらない日だった。孤独に授業を受け、昼休みには食堂で隠れるように、ぼっち飯をした。授業は五限で終わり、帰りはラッシュのピークとかぶってしまった。まったく、やれやれだよ。

 こんな満員電車の中ではしっかり立つことすら容易にできない。とくに、右の方から頻繁にぶつかってくるヤツがいる。不可抗力であるし、そんなにムカつかないが、どんなヤツなのかチラっと見たところ同じ歳ぐらいの可愛いらしい女の子がふらつきながらも、けなげに立っていた。横からなので、よく見えないが彼女のつぶらな瞳は本当に美しい。

 今度は胸が当たった。あまり大きくないが、とてもふんわりとした胸だ。不覚にも勃起してしまった。またもや、彼女がぶつかってきた瞬間、勃ったナニが彼女のやわらかい体と当たってしまった。ところが、彼女は、何も気づいてはいない様子。「よかった・・・」と俺は心の中でささやいた。

 つぎに、電車は長いカーブに差し掛かった。カーブで電車が傾いている間に、彼女はオレにもたれるように接触してきた。オレの勃起したナニが彼女のやわらかく細い体にくっついている。もうダメだ、明らかに彼女も気づいているだろう。

 電車が長いカーブを曲がり終えたところで彼女はオレの方を見た。オレは覚悟した。心臓の鼓動が異常なほど高まった。彼女は小さくて高い声で、こう言った。

 「すみません」。

 彼女はオレにぶつかったことだけを謝った。どれだけ、オレは冷や汗を掻いたのか?これだけ、心臓がドクドクして死ぬことはないのか?などと思いつつ、今朝あったことが、他人事ではなく自分にも起きてしまうのではないかと本当に心配した。



 その翌朝。昨日のことが頭から全く離れなかった。だから、とてもビクビクしていた。オレはいつもの満員電車に乗ってから、どこに立つべきなのか、あたりを見渡した。するとサラリーマンのおっさん達が、たまたま密集している場所を発見した。オレが立つことのできるスペースも確認できた。周りの人にぶつかりながらも、無我夢中でオレはその安全なスペースを目指して進んだ。そこへ着いた途端、オレの心の中では安心感が渦巻いた。ここならば、チカンに勘違いされることはないはずだ。

 ところが、その次の駅で大量に乗客が入ってくると背後から女性がグイグイとオレを押してきた。またもや勃起してしまった。

 なぜ、こんなにもオレは性的に興奮するのだ?バカにもほどがあるだろう?

 きっと、オレはあの感触を忘れることができないのだ。とにかく、チカンに疑われるようなことはなかったので、幸いだったかもしれない。そう思いつつも、大学へと急いだ。



 今日も大学はいつも通りに終わって、帰宅するのだった。幸いにも、ラッシュのピークは回避できたものの満員電車は避けられない。

 電車に乗ると、今度は近くに三十代前半かと思われる女がいた。若いとは言えないが、もし抱いてもよいのならば、余裕で抱けるレベルの女だ。

 昨日の感触を忘れることができないオレは内心、女がぶつかってくるのを待ち望んでいた。しかし、待ち切れなかった。オレは無意識の内に女へ接触しようと徐々に近づいて行った。すると、女のケツにオレの下半身のアレが当たってしまった。女は気づいたらしい。運というものは、必ず尽きるものなのである。

 その後、すぐに車内の自動アナウンスが聞こえて、電車が駅へ到着した。その時、女は「この人、チカンです!」と叫んだ。

 そして、オレは瞬時にこのように考えた。オレのナニが女に当たったとはいえ、あれは不可抗力である。ナニを当てたくて、女にぶつかったのではない。取り調べの際には、否認し続けてやる。しかしながら、女がチカンだと言えば、それでチカンが成立すると聞いたことがある。よって、オレに残された選択肢はたったひとつ。それは逃げるということだ。

 自分が本来、降りるべき駅ではないが、電車が駅に到着した途端、まるで地震を予知した野生動物のようにオレはホームへ飛び込み、逃げまくった。駅から出て、歩いたこともない街をひたすら走り回った。

 あの駅の近くへ戻るのは、危険であるのでスマホのナビを使い、迂回して帰ることにした。



 翌日、大学へは行けなかった。大学の友達は一人もいないので、友人関係の心配はない。親に対してはカゼをひいたと嘘をついた。

 それよりも、これからどうやって大学へ行くのか、ということが問題である。だから、オレは考えまくった。

 結論は、チカンに疑われないよう、これからは女装して通学するということだ。

 女であれば、ぶつかろうが疑いをかけられることはないだろう。幸いにも、オレは線の細い男である。女装とメイクをすることで、完璧に女へとなれるはずだ。自信はかなりある。

 さて、男から女への言わば変身のタイミングに関しては、以下でどうだろう?

 両親の方がオレよりも先に仕事へ出発し、後に帰宅するので、自宅で男から女への変装行為をする。そして、女装姿で電車に乗る。もちろん、大学でも女のままで過ごす。帰宅してからは、両親が帰宅する前にもとの状態へ戻せばよい。

 やがて卒業すれば、車通勤が可能な地方の会社へ就職すればよい。これなら、女装することもなく快適に通勤できる。

 


 最後に、これだけは明確に言える。満員電車は恐ろしい。


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