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アウトコレクター  作者: 一ノ瀬樹一
第五章 弁天堂美咲と狐憑呪詛
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弁天堂美咲と狐憑呪詛《フォックスカース》 01

 「弁天堂先輩。今帰りですか?」


 下校途中――。

 今日は、迷斎さんの屋敷でのアルバイトもなく、まゆりさんは用事があるとかで先に帰りました。西園寺さんも彼女たちと会うそうで、午後の授業は受けずに帰ってしまいました。


 今さらながら、西園寺の性癖に驚きはしませんが、二股であることにも去ることながら、三人で会っていることには驚かされます。しかも、お互い合意であるそうなので、私の理解を越えています。

 もっとも、私は今まで恋と呼べるものを経験したことがないので、好き――って感情も、嫉妬――って感情も理解できません。


 自分が経験したことのないことは、想像することもできない私は、何とも愚かでありちっぽけであると自覚させられます。

 こんな私でも、いつかは誰かを好きになり、恋をするのでしょうか?

 おっと、これはまた別の機会に――ってことで…。


 とにかく、そんな平和で気楽な一人の下校に、水を指す人物が現れました。


 「あなたは……誰?」


 私と同じ制服を着ているので、同じ学校であることはすぐに解りました。胸元に巻かれたスカーフの色から二年生――、つまりは後輩。しかし、私の知っている後輩ではありません。

 彼女は一体、誰なのでしょう。


 「私ですよ、弁天堂先輩。同じ中学だった、真倉座歌子まくらざうたこですよ!」

 「真倉座歌子――。ごめんなさい、覚えていない」


 真倉座歌子と名乗った彼女は、一瞬ぷくっと頬を膨らませ、明らかに不満そうな顔をしましたが、すぐにニコッと笑顔になりました。


 「まあ、私を知らないのも無理はありません。中学時代も弁天堂先輩と話したことはありませんから」

 「はあ……」


  少し背が低く、肩に掛かるくらいの髪を片方でまとめた髪型。背の割に、大きな胸と細長く伸びた足。美少女とは言わないまでも、かわいい見た目の真倉座さんですが、私の経験と第六感が真倉座歌子には、関わってはいけないと告げています。


 あんなことを、胸を張って言い切っていまう、真倉座さんは間違いなく変わった人物。これまでの経験上、変わった人物と関わってろくなことはありません。

 どう話を切り上げようかと考えていると、真倉座さんはそんな隙を与えないかのように、話を続けます。


 「だって仕方ないじゃないですか。弁天堂先輩のような有名人と、話すなんて畏れ多くて中学時代の私にはできませんでしたから」

 「有名人? 私が?」

 「ええ、有名人ですよ。私の中で、上位十三位内には入る有名人です!」


 上位十三位内――って、あまりにも微妙すぎて、喜んでいいのか怒っていいのかわかりません。


 「それで、私に何の用? 真倉座さん」

 「あれー、ひょっとして怒っています?」

 「別に、怒ってないですよ」

 「そうですよね。あの弁天堂先輩が、私の尊敬する弁天堂先輩が、そんな小さなことで怒ったりしないですよね」


 眩しいくらいの笑顔を見せる真倉座さん。彼女について解ったことはただ一つ。

 真倉座歌子は、意図せずに相手を怒らせてしまうようです。もちろん、本人は自覚していないようで、それが輪をかけてたちが悪い。

 これでは、怒ったこちの方が悪者のようになってしまいます。


 「それで――、そんな尊敬する弁天堂先輩にお願いがあるのですが、よろしいですか?」

 「お願いって――、内容によっては……」

 「さすが、弁天堂先輩です。私が思った通り、優しい先輩です。改めて、尊敬します!」

 「ちょっと待って! 内容によっては――って、言ったでしょう。ああ、もうー。それで、お願いって何?」


 さっきまで、ニヤニヤした顔をしていた真倉座さんの顔が、急に真面目な顔になり、その表情の変化に私に緊張が走りました。


 「弁天堂先輩、真剣に聞いてください」

 「な、何……?」


 辺りに冷たい空気が流れたかのように、私は背筋に冷たいものを感じました。

 そして十分に間を空けて、真倉座さんは口を開きました。


 「弁天堂先輩は、呪いを信じますか?」

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