弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》10
後日談。
と、言っても弁天堂美咲は、この場にいないので、代わりにこの黒柳迷斎さんが語るとする。
カフェでの一件を終え、トリックスターが屋敷へと足を運んだ。依頼した例の件の報告と、別れの挨拶をするためらしい。
その返は、どうも俗物ぽくて困る。
「――てことで、美咲ちゃんは無事、一人で解決することができました」
「ご苦労だったな。それにしても、六十八回とは、ずいぶんと時間をかけたものだ」
「いやいや。評価すべきは、その精神力でしょう。普通は、とっくに頭がイカレてもおかしくないでしょう。それが、美咲ちゃんの強さなんだろうなぁ」
「違うな! 弱さだよ。諦めないからこそ、自分が傷つくことに鈍感になっている。気がついた時には、廃人になってしまう」
「へー、ずいぶんと気にするじゃない。あの黒柳迷斎が、これは意外だね」
気にしている。
端から見れば、そのように映っているのだろうか?
「気になってなどいない。私の下僕が、どうなろうが知ったことではないが、あいつは何でも救おうとする。今後、つまらない噺を持って来られては困ると言っているだけだ」
「なるほどね。そう言うことにしときますよ。それより、迷斎。机の上にドーナッツを置きっぱなしにしていたのか?」
「ああ、片付けるのが面倒でな。それが、どうかしたか?」
「おそらく、美咲ちゃんはここに来たぞ。これを見たら、依頼主が迷斎って解っちゃうんじゃないかな?」
「弁天堂に、勘が働くとは思えないが、バレたならバレたで別に構わない」
そう、弁天堂には学んで欲しいのだ。これから先、生きていくには賢くなってもらわねばならない。
それでなくても、弁天堂の未来には暗雲が立ち込めているのだから――。
それともう一つ、弁天堂には学ばなければならない理由があった。
「あ、それと、例の話は本当なのか?」
「ああ、候補ではあるな。今回の件は、そのことも踏まえてのテストでもある。ゆくゆくは――」
おっと、これはまた別の噺であった――。




