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アウトコレクター  作者: 一ノ瀬樹一
第四章 弁天堂美咲と円環世界
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弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》07

 ピーピーピー。


 起床を告げる、目覚まし時計の音。

 小説には、やはり五十六ページにしおりが挟んでありました。あまり期待はしていませんでしたが、もしかしたらと期待をしたのですが、結果はごらんの有り様。


 やはり、迷斎さんの言葉通り、トリックスターを見つけるか、あるいは昨日を繰り返してしまう原因を解決するか。今回は、迷斎さんを頼ることが出来ない変わりに、トリックスターに対する情報をたくさん教えてもらいました。

 趣味、思考、強大な力の使い方。所謂、攻略するためのパターン的なことまで教えてもらいました。


 さて、最初の関門。お母さんとの朝食の場面。ここでは、2つの原因が考えられます。

 一つは、進路のこと――。


 「そう言えば美咲。進路のこと決めたの?」


 この質問に、しっかりとこたえなかったこと。それが原因となって、このループ現象が起こっているのかもしれない。

 しかし、進路を決めている訳ではないので、具体的な話を聞かれることは避けねばなりません。


 「大丈夫。大体決まっているから、今日帰って来たら話をする」


 ベストではありませんが、ベターな答えであったと言えます。お母さんも「それなら、帰って来たら話しましょう」と、納得がいったようです。


 続けて、次の関門。

 この後、お母さんがコーヒーカップを落としてしまいます。正直、私の進路とコーヒーカップが、このループ現象の原因とは思えませんが、何が原因か解らない以上、何がどんな影響を起こすのか解らない以上、コーヒーカップを救う選択をするしかありません。


 たしか、迷斎さんの言葉を借りるなら、バタフライエフェクト――と、言うそうです。


 「あっ!」


 今です。コーヒーカップが床に落ちる前に、私は手を伸ばし見事にキャッチすることができました。 運動はあまり得意ではありませんが、落ちることがわかっている以上、そんなに難しいことではなく、コーヒーカップに残っていた中身も、こぼすことはありませんでした。


 「あ、ありがとう。よく、拾ったわね」

 「偶然よ。では、行ってきます」


 第二関門も無事にクリア。

 とりあえずお母さんがトリックスターでなかったことに、胸を撫で下ろしました。

 それと言うのも、先程のコーヒーカップの中身がブラックコーヒーであり、迷斎さん曰く、トリックスターは大の甘党。苦いだけのブラックコーヒーなど飲めない――と、推理したからです。


 さて、時間は進み放課後。

 朝のホームルームのくじでは右を選び、週末の地域清掃は担当を回避しました。別に、地域清掃が嫌だったわけではありません。単純に、このループ現象から脱出したいだけで、決して地域清掃が嫌だ――などと、邪念ではないことを断っておきます。


 さらに付け加えるなら、委員長もトリックスターではありませんでした。お昼のお弁当の中に、ゴーヤが入っていて美味しそうに、友達と食べているのを見かけたからです。念のため、委員長に聞いたところ、甘いものは苦手――だそうで、とりあえずはトリックスター候補からは除外しました。


 それでは、話を戻します。

 すでに例のカフェへと場所は移り、店に入るなり私は店内の様子に目を配ります。


 女子高生のグループ。

 OL風の女性。

 パンケーキを頬張る、中年の男性。


 さらに正確に店内を描写するなら、他愛もないガールズトークを繰り広げている四人組女子高生グループ。

 本を片手に、コーヒーを飲んでいるOL風の女性。

 そして、パンケーキに大量のブルーベリーシロップをかけ、幸せそうな顔をした中年の男性。

 あとは、この店のマスターらしき初老の男性と、ウエイトレスの女性が二人。

 私を除いた、十一人の中にトリックスターが潜んでいる。

 迷斎さんの話では、トリックスターは年齢、性別、外見――すべてを自由に変えられるそうなので、全くもってわかりません。


 そうこうしていると、女子高生グループが例の如く絡んできました。


 「おい、さっきからうっせんだよ!」


 この後、まゆりさんが話をややこしくして、私が軽い怪我をする――。それが、この後起きることですが、この女子高生グループを上手く回避すれば、OL風の女性との接点もなくなるので、ここは何とか慎重かつ穏便に事態を収拾することにしましょう。


 「すみません、お騒がせしてしまって……」

 「ちょ、ちょっと美咲さん。何を謝りって――」

 「まゆりさん、ここは黙っていて!」


 私の真剣な表情を察したようで、言いたいことがあったのでしょうが、まゆりさんはそれ以上、口を閉じていました。


 「すみません。謝りますから、それで許してもらえませんか?」

 「許すって、そっちの女は何か言いたそうだけれど? そっちの女は謝らないのか?」

 「……」


 思った通り、矛先はまゆりさんの方へと向きました。

 プライドの高いまゆりさんに、ましてや謂れのないことで謝るようにお願いすることは、私にはできませんでした。


 しかし、勘の鋭いまゆりさんは、私の予想しない行動に移りました。


 「私が気に入らないのなら、謝りますわ。どうも、すみませんでした」

 「……」


 まゆりさんはあっさりと頭を下げ、女子高生グループに謝罪しました。おそらく、納得などいていないでしょう。しかし、私のために――と、まゆりさんは頭を下げてくれたのでした。

 私は、申し訳ない気持ちで、まゆりさんを見ていることしかできませんでした。


 「あー、もういいかな? 私は、早くこのパンケーキを食べたいのだが……」

 「あなたって人は! 私が仕方なく頭を下げているのに、本当に空気を読まない人ね!」

 「そんなわけだから、お前らももういいだろう? それとも、私が代わりに相手をしようか?」


 一部始終を、黙って見ていた西園寺さんが、とうとう口を開きました。


 そして、西園寺さんが元林田さんだと気がついた女子高生グループは「すいませんでした」と、頭を下げお店から逃げるように出て行きました。


 とにかく、私も怪我をしなかったし、OL風の女性とも接点を持たなかったので、トリックスターが誰なのかは解りませんでしたが、考えれるすべての原因を回避することができました。


 後は、明日になることを祈るばかりです。

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