弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》05
この不可解で怪奇な現象の説明を求めるのは、迷斎さんをおいて他に考えられません。
私は、放課後になるのを待ち、迷斎さんのいる屋敷へと向かいました。
もちろん昨日と同じように、まゆりさんからのお誘いはありましたが、今は一刻も早くこの現象を解決することを優先するため、お断りしたのは、言うまでもありません。
「迷斎さん、大変です! 私の身に、またしても怪奇現象が起こりまし――」
「よう、弁天堂か。よく来たな」
「な、何ですか、これは?」
いつもの様に、応接室のいつもの席に座る迷斎さん。これだけでは、いつもと何ら変わらぬ光景なのですが、いつもと違い異常な光景が、そこには広がっていました。
迷斎さんの屋敷の応接室には、四人掛けのソファーが二脚テーブルを挟んで設置してあります。とても高価な年代物の様で、座った瞬間あまりのふかふか加減に、つい眠くなってしまうくらいです。
問題はそのソファーではなく、テーブルの上にあります。四人掛けのソファーに合わせて、当然テーブルも大きい物を用意されていますが、そのテーブル一面に、○スタードーナッツが余すところなく置かれていました。一種類づつ、一体何種類で何個あるのか解らないくらいに、たくさんのドーナッツです。
「何ですか――、ドーナッツだよ、○スタードーナッツ。弁天堂は知らないのか?」
「いや、ドーナッツは解ります。私が言っているのは、何でこんなにたくさんのドーナッツが、置いてあるのか――ってことです。それに――」
それによく見ると、ほとんどのドーナッツが一口だけ食べられていて置かれています。たくさんのドーナッツが、置かれている光景も不気味ですが、一口だけ食べられてそのまま置かれていることが、さらに不気味さを増しています。
迷斎さんの奇行は、今に始まったことではありませんが、これは余りにも異常です。
「ああ、これか。これは、先ほどまでいた古い友人が買って来たものだ。大の甘党でな、○スタードーナッツを全種類買って来たのだよ。それで、ただ食べるのもつまらないと思って、目を閉じて食べ、お互い何のドーナッツか当てる利きドーナッツをしていた――ってわけだ」
「全種類って――」
いい大人のすることではないと思いますが、迷斎さんのおこなう行動をいちいち気にしていては、身が持ちません。
それに、ちょっと以外だったのが、迷斎さんに訪ねて来る友人がいたことです。まだ短い間柄ですが、怪奇噺以外のことで、迷斎さんの屋敷へと足を運ぶ人は、今までいなかったからです。
興味を惹かない――と言ったら嘘になりますが、それよりも、渡しに起きたこの怪奇現象を説明――もとい、解決してもらわなければなりません。
「そんなことより迷斎さん。大変なんです! 私、昨日と同じなんです」
「昨日と同じ? 弁天堂、お前はいつも同じことを繰り返しているだろう。テストで同じ問題を間違え、余計なことに首を突っ込んで失敗して……。そうそう、紅茶の淹れ方も一向に上達しない。進歩していない点では、昨日と同じだろう?」
「そうじゃなくて! 言葉のまま、本当に昨日と同じなんです!」
どうにも、信用してもらえないので、私は昨日からのことを迷斎さんに話しました。
起きてからのこと、朝食でのこと、朝のホームルームでのこと。すべてを迷斎さんに話しました。
「なるほど。では、昨日と違う行動を取ったのは、この屋敷に来たことなのだな?」
「はい、そうです。迷斎さん、一体この怪奇現象は何なのでしょうか?」
「弁天堂。先に言っておくが、今回のこの件に限り、私は何の解決も出来ないぞ」
いつになく、真剣な表情で迷斎さんは、そう言いました。




