弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》04
ピーピーピー。
起床を告げる目覚まし時計の音を止め、私は目を覚ました。昨夜は、小説を読んでいる途中で寝てしまったので、どこまで読んだか覚えていません。
枕元に置いてある小説を見ると、しおりが挟んでありました。無意識でも、しっかりとしおりを挟んでいる自分に感心をし、どこまで読んだか確認しました。
五十六ページ。
あれ? 昨夜は確かに五十六ページから読んだような?
きっと、寝ぼけいたのでしょう。しおりを同じところに挟んでしまったようです。
あまり気にもせず、私はいつものように、顔を洗い歯を磨き、軽くお化粧をして髪を整えました。
そして、朝食を食べるため、テーブルにつきました。いつものように、トーストとカフェオレが用意されていました。
「あれ? お母さん、マーマレードがないよ。昨日、作っておくって言ってたでしょ?」
「え? 何を言ってるの? マーマレードはそこの瓶にない?」
「……ないよ」
「そう? じゃあ、今日はバターで我慢して」
あれ?
何か昨日もこんな会話をしたような――。
約束を守るお母さんにしては、珍しく作り忘れてしまったようです。
「そう言えば、美咲。進路は決まったの?」
「昨日も話したけれど、まだ何とも言えないよ」
「昨日? 何を言っているの? 来週、三者面談があるから、あさってお父さんにもお話しないとね」
「!?」
どうもおかしいです。お母さんの話してることが、昨日と同じで、これがデジャブと呼ばれる現象なのでしょうか?
「聞いてるの美咲?」
「聞いてるよ。今日、帰って来たら話します」
「そう、それならいいわ」
話し終わると、お母さんはコーヒーカップに手を伸ばしました。たしか、この後――。
「あ! お母さん!」
「!」
お母さんは私の声に驚き、手を滑らせてコーヒーカップを落としてしまいました。
「もう、ビックリするじゃない」
「ごめんない」
「後はいいから。それより、時間大丈夫なの?」
時計の針は八時を指していました。頭は混乱していましたが、私は慌てて家を出ました。
教室に入ると、遅刻ギリギリだったこともあり、すぐにホームルームが始まりました。
「では、朝のホームルームを始めます」
「え!」
「弁天堂さん、どうしましたか?」
「いえ……何でもありません」
黒板に書いてある日付を見て、思わず声が出てしまいました。日付は昨日とまったく同じで、朝食でのことを思うと、やはり昨日と同じ日をまた辿ってるようです。
「――では、立候補もないようなので、くじで決めたいと思います」
たしか、週末の地域清掃に、各クラスから二名選出するためのくじ。立候補がなかったため、仕方なく公くじで決めることになったはずです。
そして、最後から二番目の私の所に来た時には、二枚のうち左の方が当たりだったはずです。もしも、昨日と同じなのだとしたら――。
「弁天堂さん。ホームルームが終わってしまうので、早く引いてもらえない?」
「すみません」
確かめずにはいれません。私は、昨日と同じように左のくじを選びました。
「あ!」
「決まりね。最後の一人は弁天堂さんってことで、以上でホームルームを終わります」
やはり、左が当たりでした。それと同時に、昨日と同じ日をもう一度繰り返しているのだと――、疑念が疑惑へと変わった瞬間でもありました。
私の身に、またしても不可解で怪奇な事件の、始まりを告げた瞬間でもありました。




