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アウトコレクター  作者: 一ノ瀬樹一
第四章 弁天堂美咲と円環世界
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弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》03

 「ありましたわ! 美咲さん、こちらですよ」

 「素敵なお店ですね」


 放課後。私はまゆりさんに連れられ、最近できたカフェへと来ました。


 「へー、ここか。本当に旨いんだろうな?」

 「ええ。それよりも、西園寺さんは誘ってないのですけれど――」

 「結愛でいいよ。硬いこと言うなって」


 偶然、まゆりさんの誘いを受けた時、たまたま近くにいた西園寺さんが、強引に一緒について来ることになりました。


 ちなみに、西園寺さんは例の一件以来、表と裏の性格が統合され、本来の性格に戻ったようです。見た目も変わり、髪も明るくし、制服も着崩して、化粧も派手になりました。


 しかし、今の西園寺さんの方が無理をしていないようで、ここに至るまでの経緯を知っている私は、これで良かったのだと思っています。


 「美咲さん、入りますわよ」

 「美咲、行くってよ」


 二人に連れられ、お店の中へと入りました。


 店内は、赴きのあるアンティーク調の家具で統一されていて、そのヨーロピアンな雰囲気はとても素敵です。

 しかし、夕方だと言うのに、他にいるお客様は大声でしゃべっている女子高生の四人グループと、本を楽しんでいるOL風の女性が一人。後は、パンケーキを食べている中年の男性が一人でした。


 「あ、あれですわ。話していたパンケーキ! あの方が食べている」

 「ほう、確かに旨そうだな」

 「ちょっと、二人とも。そんなにジロジロ見ては失礼ですよ」


 生クリームのたっぷり乗ったパンケーキに、シロップをたっぷりかけ、如何にも美味しそうなパンケーキを頬張る中年男性。

 見ているこっちが、食べたくなります。


 「じゃあ決まりね。すいません、注文よろしいかしら?」


 数分後、パンケーキを食べながら、雑談ならぬ女子トークが始まりました。


 「美咲さん、ここのお店はパンケーキのシロップが豊富なのが有名なの。私はブルーベリーシロップにしますわ」

 「私は……メイプルシロップにしようかな? 普段、家ではお母さん手作りのマーマレードだから、シンプルなメープルシロップは、あまり食べたことないから――」


 テーブルの横にワゴンが運ばれ、十種類のシロップが並べられていました。お好みで、どのシロップを使ってもいいようです。

 私たちは、それぞれが別々のシロップを選択しました。


 「メープルシロップも旨そうだな。美咲、一口もらうぞ」

 「ちょっと、西園寺さん! 美咲さんを呼び捨てにしないで!」

 「何でだ? 別に構わないだろう、美咲?」

 「ええ、構いませんよ」

 「ほら、まゆり。美咲もこう言ってるし――」

 「西園寺さん! はっきり言っておきますけれど、私は美咲さんのことを愛しているわ。だから、二人の間を邪魔しないで!」

 「ふーん。まゆりはあれか、レズなのか?」

 「そうよ! 何か文句でも」

 「いや、別に文句はないよ。いいんじゃないか」

 「……」


 予想外の返答に、まゆりさんも私も言葉を失いました。しかし、西園寺さんの言葉の意味はすぐに解りました。


 「美咲は何言うか――、人を惹き付ける魅力があるよな」

 「魅力なんてそんな……」

 「女性らしい雰囲気で、髪も身体も柔らかそうだし、指だって細くて綺麗だし――食べたくなっちゃう」

 「!?」


 西園寺さんはそう言って、私の指を舐めました。舐めると言うよりは、厭らしく指をしゃぶっています。

 その上手さたるや――、手馴れているようで、正直気持ち良くなっていました。


 「ちょっと、いつまでしゃぶっているの? 離れなさい!」

 「何だよまゆり。ケチだな。それとも、まゆりもしゃぶって欲しいのか?」

 「な、何に言っているの? あなたも、レズなの?」

 「まあー、レズって言うよりは、バイかな? バイセクシャル」


 衝撃のカミングアウトはともかく、私の周りにはまとも友人がいないようで――。


 「おい、さっきからうっせんだよ!」


 テーブルを一つ挟んで座っている、女子高生グループの一人からでした。


 「何ですのあなた達は? あなた達の方が、さっきからうるさいんじゃなくって?」

 「ちょっと、まゆりさん」

 「なんだと!」


 まゆりさんの言葉に怒っようで、女子高生グループが私たちのテーブルへと近づいて来ました。


 「おい、もう一回言ってみろ!」

 「何度でも言いますわ。うるさいのは、お互い様でしょう?」

 「て、てめー!」

 「ちょ、ちょっと待ってください」


 女子高生グループの一人が、まゆりさんの胸ぐらを掴んだので、とっさに間に割って入りました。

 しかし「うるさい」と突飛ばされ、私は床に倒れてしまいました。


 「大丈夫ですか?」


 倒れた私に、OL風の女性が近づいて来ました。手を少し擦りむいてしまったようで、それを見たOL風の女性はポケットからバンソウコウを出して手当てをしてくれました。


 「おい、お前ら。私の友達に何してくれてんだ!」


 ドスの効いた声で、それまで黙っていた西園寺さんが、口を開きました。


 「何だてめーは? お前も、こいつみたいにしてやろうか?」

 「面白い、やってみろよ」

 「ちょっと、西園寺さん。邪魔しないで! 私の美咲さんに手を出したのだから、私がやるわ」

 「西園寺? ちょっと、まずいよ。こいつ、林田だよ」

 「林田? 林田って、あの林田?」


 やはり、西園寺さんは一部の方には有名なようで、鋭い眼光で睨まれた女子高生グループはすでに、戦意喪失しているようで、何人かは足が震えていました。


 「それで、誰から私の相手をしてくれるんだい? もちろん、ただでは帰さねぞ」

 「……」

 「西園寺さん、もういいですよ。私も大した怪我ではありませんし、私たちもうるさかったのは事実ですから」

 「……。美咲がそう言うならわかったよ。ほら、お前ら、とっとと失せな」


 「すいませんでした」と言い、女子高生グループはそそくさと、お店を出て行きました。

 私はOL風の女性にお礼を言って、テーブルに戻りました。


 もちろんその後、まゆりさんと西園寺さんが言い争いをしたことは、言うまでもありません。


 その日の夜。

 お母さんとの進路の話し合いは、結局答えが出ないまま保留となりました。

 私は今日一日を振り返り、大変な日だったと思い、現実逃避と気分転換に小説の続きを読みました。


 そして、数ページほど読んだところで、眠りにつきました。

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