弁天堂美咲と円環世界《トラースワールド》02
ピーピーピー。
起床を告げる目覚まし時計の音を止め、私の一日は始まります。昨夜は、大好きな小説家の新刊発売日であったので、ついつい夜更かしをしてしまいました。
ちょうど、五十六ページにしおりが挟んであるので、ここまで読んだのでしょう。帰り次第、続きを読みたいと思います。
私の朝は、顔を洗って歯を磨き、軽くお化粧をして髪を整えます。お化粧は、中学生の時にお母さんに習ったもので、女としてのたしなみ。エチケットとして習ったものが、習慣なっています。
そして朝食。
メニューは、トーストとコーヒーが苦手な私は、ミルクたっぷりのカフェオレ。トーストには、お母さん特製のマーマレードをトーストに余すところなく塗りたくり、一気に頬張る。
その瞬間、甘さの中に柑橘系特有の程よい酸味、時折顔を出す皮の苦味が何とも言えない至福の瞬間ならぬ、私腹の瞬間が訪れるのです。
さて、時間もさほどありませんので、さっさと朝食を頂くことにしましょう。
「……あれ? お母さん、マーマレードは?」
「あら? そこの瓶入ってなかつたかしら?」
「ないよー。空だよ」
「ごめんなさい、切らしてしまったみたいね。今日はバターで我慢してね」
「えー」
今日中に作ってくれることを約束し、私は仕方なくバターをトーストに塗り、食べることにしました。
「そう言えば、美咲。進路は決めたの?」
トーストを食べ終える頃、お母さんがコーヒーカップを持って、テーブルのいつもの席に座りました。
「うーん。大体決めたけれど……」
「そう。来週、三者面談があるから、あさってお父さんにもお話しないとね」
私のお父さんは、出張が多い人で仕事人間です。日本全国ならず、時には海外にも出張するので、今も出張中であさってには帰って来ます。
「今日帰って来たら、話すよ」
「そうね、そうしてちょうだい――。あっ!」
お母さんが、コーヒーを飲もうとコーヒーカップを手にした時です。手が滑ったようで、お母さんはコーヒーカップを床に落としてしまいました。
「大丈夫? お母さん?」
「大丈夫よ? 手が滑っただけだから――。それより、美咲急がなくていいの?」
「え!?」
時計の針は、八時を指していました。朝のホームルームまで後、二十五分しかありません。
私は慌てて家を出て、学校まで走ることになりました。
「では、ホームルームを始めます」
何とか遅刻は間逃れたものの、全速力で走って来たため、髪は荒れ放題。汗はびっしょりで、すでに帰ってシャワーを浴びたい気分です。
こんなことなら、ゆっくりと朝食をとっていないで、早く家を出ればよかったでした。
「――と言うことで、立候補もいないのでくじで決めたいと思います」
「――まゆりさん、くじって何?」
「美咲さん、聞いていなかったのですか? 週末の地域清掃に、各クラスから二名ださなければならないらしくて、それをくじで決めるそうよ」
「へーそうなの」
席順にくじを引いていき、窓際の後ろから二番目の私のところに順番が回ってきた時には、残り二枚。すでに、一人は当たりが出ているので、この二枚の内どちらかが当たりとなります。
右か左か――。正直、週末の地域清掃には参加したくないので、ここで当たりを引くわけにはいきません。
「弁天堂さん。ホームルームが終わってしまうので、早く引いてもらえない?」
「あ、ごめんなさい」
優柔不断の性格が災いし、委員長に迷惑をかけてしまいました。とにかく、後は天に運命を任せ、私は左のくじを引きました。
「あ!」
「決まりね。最後の一人は弁天堂さんってことで、以上でホームルームを終わります」
二分の一の確率とは言え、まさか当たりを引くとは思っていませんでした。今日は、朝から本当についていません。
しかし、本当の不幸はこれからなのでした。




