弁天堂美咲と幻獣《ミスティカルビースト》 07
「二面性――」
「つまりは、表と裏だ。よく、表の顔、裏の顔と言うだろう? 人当たりの良い親切な人間が、裏では悪行を重ねているように、人間には表と裏がある。その象徴たるものが、二角獣の二本の角だ。その西園寺の性格の変化は、二角獣によるものと見て、間違いないだろう」
今の西園寺さんが、表と裏どちらなのかは解りませんが、自我を保てていないのは明らかなようで、迷斎さんが言うには、このままでは表と裏のバランスがとれなくなり、自我が崩壊し廃人になるか、あるいは二角獣に殺されるかの二択しかないそうです。
「しかし、弁天堂。私も気になることが、一つある」
「何でしょう?」
迷斎さんが気になること?
他人に興味を示さず、文字通り何でも知っている迷斎さんが、寄付金こととは、一体何でしょう。
私は、そのことが気になります。
「弁天堂の話では、二角獣は、西園寺に使役しているかの様だったのだろう? そのことが、どうも解せない」
「ええ、飼い慣らしていると言うか、忠実なペットの様だったと言うか――」
「それだよ! 二角獣も一角獣も気高い幻獣だ。人間に従うなんぞ、あり得ない! きっと何か裏があるに違いない……」
そう言って、迷斎さんは今日は帰るように言い、部屋から出ていってしまいました。
私も、西園寺さんのことが気にはなっていますが、どうするともできないので、帰ることにしました。
翌日の放課後。
私は昨日と同じく、校舎裏に足を運びました。
今回は私からではなく、西園寺さんからの呼び出しであり、靴箱の中に手紙が入っていました。
――放課後、校舎裏で待っています。必ず一人で来て下さい――
かくして、私はまゆりさんに用事があることを告げ、校舎裏へと向ったのでした。
「西園寺さん。私に何か用ですか?」
校舎裏には、すでに西園寺さんが待っていました。近くには、例の二角獣は居らず、西園寺さんは一人で待っていました。
「弁天堂さん。随分と、私のことを調べているようですが、忠告しておいたはずですが――」
「でも、西園寺さん。あなたが昨日、一緒にいた怪物は二角獣と言って、とっても危険な怪物です。私の知り合いに、迷斎さんと言う人がいます。その人に頼んで退治しましょう。そうしないと、西園寺さんは……」
「何? 死ぬとでも言うの? だったら、願ったりじゃない」
「願ったりって――」
西園寺さんは、まるで死を望んでいるかのようなで、その表情には、悲しみも怒りもなく、無表情そのものでした。
生きる気力もなく、ただ生きていることに絶望しているようでした。
「それとも、弁天堂さんは私に生きて欲しいのかしら? 調べていたからには、私の過去のことは知っているのでしょう? こんな穢れ切った私に、輝かしい未来があると思っているの?」
「それは……」
「ほら、やっぱりそうじゃない。適当なことを言って、私の質問に答えることが出来ないじゃない! 解ったら、私のことはほっといてよ!」
怒りを露にする西園寺さん。
私は圧倒され言葉が出ませんでした――とはならず、私の中でも怒りが込み上げてきました。
「勝手なこと言わないでよ! あなたの人生でしょう? 穢れていようが、未来が輝かしいものでなかろうが、あなたの人生じゃない! 甘えるのもいい加減にして!」
私の中で込み上げていた怒りの正体は、西園寺さんが昔の私の様に見えたからでした。
昔、つまりは迷斎さんと知り合う前、まゆりさんと出会う前で、縁くんと知り合う前の私。
周りに流されて、なんとなくで生きていた頃の私。
自分の人生を大切に考えず、悪いことは周りのせいに、生まれのせいにしていた頃の私。
そんな感情が私の中で、沸々と沸き立つマグマのように怒りとなって私を動かすのでした。
「お、お前に何が解るんだよ! 私だって、こんな人生嫌に決まっているだろう! 誰かのせいにしなければ、私はもう……」
「そんなの、不幸でもなんでもないよ。それに、私も――」
「おっと、そのまでだ弁天堂」
気がつくと、辺りはすでに日が落ちていました。
いつものように、突然現れた迷斎さん。そして、いつものように、あのセリフを口にします。
「さあ、噺の終焉を迎えよう――」




