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6 子どもなのか?大人なのか?

トーコが語ります。

 幼児運動室に行くと、ブランコに乗ったアニーがあたしに気付いて〈おいでおいで〉をしている。

 アニーは明るいブラウンの髪をツインテールにした、4歳にしては小柄で琥珀色の瞳の女の子だ。

 あたし同様もうじき5歳で、非魔法使いの前世持ち。

 住み慣れた魔法使いキャンプを出て何処かの誰かの養子になるか、外の児童養護施設に入るか、ここの小児生活棟に移るか、ここ最近毎日のように話し合っている。


「トーコォ、やっぱさぁ、二人で外の施設に入る事にしない?パニックに巻き込まれて怪我とかやっぱ恐いしさ、どうしたってここの中心は魔法使いな訳じゃない?新しい人生はもっとお気楽に生きようよ~」


 アニーは前世で8人の子持ちだったらしい。

 若い頃から育児に追われて暮らして来たから、今の人生はもっと自由に暮らしたいって言ってる。

 あたしは?あたしはどう生きたいんだろう?

 あたしの前世は魔法使いの育児をしていたらしいけど、どんな家族がいてどう暮らしていたのか憶えてない。

 何をしたくて、何をしたくないのか?

 少なくとも、魔法使い達との生活は楽しい。

 不満はない。

 でも、本来ここは魔法使いの為の場所であって、非魔法使いの場所じゃない。

 あたしを養う為に、ここの運営資金を減らしちゃいけない。

 それならここを出て行くのが筋ってもんだ。

 やはり児童養護施設に入るべきなのかな?


「アニー、あたしアニーと一緒に施設に入る方がいいのかな?」


 アニーは目をパチクリして、こちらを覗き込んだ。


「トーコが途方にくれた顔してる…」


「っ!な・なに?あたし変な顔してるの?」


 アニーの訝しげな顔に、何故か激しく動揺すると、


「変な顔って言うより、いつも迷いなく行動するトーコが、どうしたら良いのか判らなくてオロオロしてるって事にビックリよ」


 などと言われ、逆に驚いてしまった。


「そうなの?あたしいつもそんな感じ?うーん…」


 いつもの自分ってどんな風なんだろう?今のあたしはあたしらしくないって事?

 ウンウン頭を抱えていると、アニーが頭を撫でてくれた。


「イヤイヤいいと思うよ~。うん。人間らしくて逆にホッとしたよ」


 そう言ってフワリと微笑むと、今度はイタズラっぽい笑顔を向けて、


「それにさ、大金持ちが養子にしたいっつーて来るかもしれないじゃん。5歳になるまで一ヶ月以上はあるんだし、未だ決めなくてもいいよね」


 と、結論付けた。

 確かにいきなり出て行けと言われるわけでもないし、5歳の誕生日が来ても数ヶ月迷い続けた子だっていた。


「そうだね。あたし達こう見えて子供なわけだし、グズグズしたって許されるわよね」


 と、アニー共々ニヤリと口元を歪め合ったわけだけど、これがただの先延ばしだって事くらいお互い解っているんだ。

 だって子供じゃないからね。まだまだ未知なこの世界で、人生の決断をするのは慎重になって当然。


「さあそれじゃあ幼児活動しなきゃだね。ブランコブランコ♪感覚統合遊び♪前庭覚(ぜんていかく)の強化〜♪」


 ブンブン縦に長く前後に揺れるブランコに立って乗って、きゃあきゃあ騒いで遊ぶ。

 体が大人だと気分が悪くなりそうな揺れだけど、子どもの体は愉快な興奮に包まれて、楽しい…快感!


 前世持ちの難点として、子どもの遊びをしたがらないってのがある。

 これが困った事に、遊ばないせいで脳の成長を妨げるので、年齢が上がるにつれて前庭覚と固有覚という情報の統合が上手く行かなくなる場合が出てくるらしい。

 興味の赴くままに行動出来る普通の子どもと違って、前世持ちの子どもは自然に遊べない。

 なので、同じく脳の感覚統合の上手く行かない難点のある魔法使い達と同様に、わざわざ感覚統合遊びをするようプログラムを組まれている。

 前世持ち達は、皆必死で取り組んでいる。

 理由はやらないとオヤツ抜きになるからだ。

 子どもの体にとってオヤツ抜きは厳しい。

 プログラム消化の為、前世持ち達は毎日必死だ。

 おかげで近頃は、前世持ちは気難しいとかカンシャク持ちだとか言われる事が減ったらしい。

 プログラム様々だ。

 ちなみに、感覚統合が成熟していないと起こる不具合は情緒面、対人面、学習面、言語面に現れるそうです。

 いくつかの例を挙げると、


 ①落ち着きがない

 ・周りの刺激(感覚入力)にすぐに反応してしまう。

 ・注意、集中ができないなど

 ②触覚、前庭感覚、視覚や音刺激に対して過敏である

 ・触られることを極端に嫌がる。

 ・ブランコなど大きく体が揺れたり、不安定になることを極端に怖がる。

 ・新しい場所が苦手。

 ・ドライヤー、泣き声など特定の音が嫌いであるなど

 ③感覚刺激に対して鈍さがある

 ・頭を叩いたり、自分から強烈な刺激を求める。

 ・体の痛みに気づかない。

 ・声をかけても気がつかないなど

 ④動作の協調性の問題(不器用)

 ・跳び箱、縄跳びやボール投げなどが大きな運動が苦手。

 ・ひも結びや箸の使い方など細かな運動が苦手など

 ⑤言葉のおくれ

 ・ことばが出ない。

 ・目が合わない、振り向かない。

 ・自分が思っていることをうまく言えない。

 ・助詞の間違いなど

 ⑥対人関係

 ・友達と上手く遊べない

 ・ルールの理解ができないなど

 ⑦自分の行動をうまくコントロールできない

 ・待てない、すぐに怒るなど衝動的な行動をする。

 ・気分の切り替えができない、こだわりがあるなど

 ⑧自分に自信が持てない(心理的問題、二次的問題)

 感覚統合に問題があると、いろいろな活動に対して、失敗することが多くなる。

 周りからは「怠けている」「甘えている」といった見方をされることも。

 その結果、自信がなくなり消極的になったり、逆に投げやりになったりすることもある。



 結構大きな問題です。

 前世の自分のイメージを損なうだろうし、一生引きずりそうです。

 魔法使いの様に、生まれつき感覚統合に難のあるタイプでなくても、子どもの頃に養うべき感覚を獲得し損ねるのは大きな損失。

 感覚統合療法を提唱したDr.ミヤタに感謝なのだ。

 何せ前世の記憶が邪魔して照れを感じる遊びに対して、楽しむ理由を与えてくれたわけで、遊ぶってこんなに楽しい事だったっけって思い出させてくれたんだもんね。


 いつかDr.ミヤタに会えたら、何か恩返ししなきゃね…と心密かに思っている事が、これから起こる悲喜劇に繋がるなんて、この時のあたしには想像もつかない事だったのでした。

奈良県総合リハビリテーションセンターの、リハビリテーション科のページを参考にさせていただきました。

http://www2.mahoroba.ne.jp/~narareha/reha13.html

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