第十二話 場違いなお茶会①
「フィオナ、遅かったじゃないか」
軽やかな声とともに手を振ったのは、フィオナ王女の兄であり、この国の王太子でもある、レオナルド・ルミナリア殿下だった。
柔らかく光を受けるシルバーブロンドの髪に、どこか人懐こさを感じさせる、鮮やかな翠の瞳。
整った顔立ちは気品に満ちていながらも、威圧感はなく、むしろ穏やかで親しみやすい印象を与える。
王族としての威厳と、柔らかな人柄を併せ持った青年である。
そしてその隣には、エドガー・アルヴェイン公爵の姿もあった。
二人の姿を認めた瞬間、セシリアの身体は反射的に動いていた。
すっと背筋を伸ばし、最敬礼の姿勢を取る。
「セシリア・ヴァルモンドにございます。フィオナ殿下にお供し、参上いたしました」
「ん?……誰かと思ったら、セシリアか」
レオナルドは一瞬だけ目を見張り、感心したような声で続ける。
「衣装ひとつで変わるものだな。すごく綺麗で驚いたよ。ああ、もう顔を上げていいよ」
柔らかな声音に促され、セシリアはおずおずと顔を上げた。
「……恐れ入ります、殿下」
戸惑いながら礼を述べる。
視線を上げたその先で、レオナルドがふわりと笑みを浮かべて頷いていた。
けれど、その隣に立つもう一人の人物に目を向けた瞬間、一瞬で空気が変わった。
(……ヒッ!)
セシリアは思わず息を呑んだ。
エドガーが明らかに、機嫌が悪い。
いや、それどころではない。
静かに座っているだけなのに、周囲の空気が凍りついたかのような圧を放っている。
視線はレオナルドへと向けられており、その眼差しは冗談では済まされないほど鋭かった。
まるで、今にも斬りかかりそうなほどの威圧感がある。
「セシリア、とっても可愛いわよね」
その空気をぶった斬るかの様に、フィオナが明るい声で、楽しげに言った。
「私、いい仕事したでしょ?」
「ああ、本当にそうだな」
レオナルドもくすりと笑いながら同意する。
「まさかあのセシリアが、こんなに華やかな姿になるとは思わなかったよ。いいじゃないか、新鮮で」
レオナルドのその言葉に、隣の圧がさらに強まる。
そのなんとも言えない緊迫感に、セシリアの背筋に冷や汗が伝った。
「……レオナルド様」
その時、エドガーの低い声が、静かに響いた。
「どうした、エドガー」
「少し、距離が近すぎるのではないですか?」
エドガーが、冷めた低い声で呟く。
「……は?」
その言葉を聞いたレオナルドが、一瞬、目を大きく広げて、驚いた顔をした。
そしてその後、心底面白そうな顔をして、目を細めた。
「エドガー、お前……、私は普通に褒めただけだぞ?」
「それが問題だと言ってるんです」
間髪入れずにそう返すエドガーに、レオナルドは、もう我慢ならないという様に、肩を振るわせ出した。
「こんなエドガー、初めて見たな……。いや、実に面白い……」
そんな二人を見て、フィオナが少し呆れた様に言った。
「相変わらずね、あなたたち」
フィオナのその言葉に、レオナルドが肩をすくめる。
「まあ、乳飲み子の頃から一緒だからな。今さら遠慮も何もないが……」
「……むしろ遠慮していただきたい場面もあるのですが」
そのエドガーがまたツボに入ったのか、レオナルドがまた笑い出してしまった。
二人のやり取りを見ていたフィオナもまた、呆れつつも、楽しそうに笑う。
するとエドガーがフィオナの方に視線を移し、そのどす黒い空気を纏ったまま、低い声で聞いた。
「……お聞きしますが、このドレスをセシリア嬢に送ったのはフィオナ様ですか?」
瞬間、フィオナとエドガーの間の空気がピリッと張り詰める。
「え……、ええ。そうよ」
先程までレオナルドに向けられていた、突き刺さるような鋭い視線が、今度は自分へと向けられる。
さすがのフィオナも肝を冷やし、わずかに肩を震わせながら答えた。
するとエドガーは眉を顰めて考える素ぶりをした。
「フィオナ様だったら許容範囲か……?いや、でもな……」
明らかに納得していない様子で、ぶつぶつと何かを呟いている。
(エドガーって、セシリアのことが絡むとほんと人が変わるわよね)
フィオナは内心でそう呟き、呆れたように小さく息をついた。
「エドガー……、嫉妬する前に、セシリアに何か言うことあるんじゃないかしら……?」
「……っ」
その一言で、エドガーははっとした様に、セシリアへと視線を向けた。




