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天使の介護  作者: ひるね
5/5

約束

麗という男はうどんを啜りながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。それはもう、見ていられないほどに。


鼻からは鼻水を盛大に垂らしているし、涙を止めようなんて1ミリも思ってないのだ。

欲しい玩具を買ってもらえなかった、子供の頃を思い出した。


癇癪って起こすともう眠るまでやめられないんだよなぁ。


「麗はどこの人なの?」


「…っ……魔界だ……っ」


「まだ引っ張るんだ」


「なにも引っ張ってなんかいない!」


「はいはい。今日は俺もほろ酔いだから信じるよ」


「……」


麗はうどんを啜るのを一旦やめて、麦茶をぐびぐびと飲み干した。

そして、近くにあった台拭きで盛大に顔面を拭く。


意外とワイルドだなぁ。


「おく。お前…英五をお爺ちゃんと呼んでいたが…まさか英五の孫か?」


「うん。焚き火にいる時からそう言ってたし、孫の振る舞いしてたろ?」


「親戚の英五をお爺ちゃんと呼んでいたのではなく…英五の子供の子供なのか…?」


「うん。父がお爺ちゃんのお父さんだよ」


俺は、冷め始めたうどんを啜った。

鶏から良いダシが出ているなぁ。次は三葉をいれようか。


「ふざけるな!!!!」


麗は勢いよくダイニングテーブルを叩きながら立ち上がった。グラスに入っていた麦茶が揺れた。

ちょっと飲んどいて良かった、零れてない。


「…え?何が?いきなりヒステリー起こすのやめてよ…俺、怒鳴られるの苦手なんだ」


はぁ、と俺がため息をつくと麗は我を取り戻し、ゆっくり椅子に座り直した。


「すまない。取り乱した。しかし…英五は私と婚約していたのに…人間の女と結婚し子供まで設けていたのか」


「はぁ?麗さんとお爺ちゃんが?婚約?」


「あぁ。付き合っていた。ただ、人間と悪魔の婚礼は禁じられている」


「あははっ、そうなんだ。で?」


酔っ払いの話は面白い。明日起きたらからかってやろう。


「悪魔と人間の婚礼は禁じられているからな。俺は魔王である父の許しを得るために、しばらく魔界に帰っていた」


「ほー?で、許しは得られたの?」


「あぁ、かなり厄介だったが…条件付きでだ」


「条件ってなに?血を貰う〜とか?なんか契りを交わす〜とか?」


「……」


「なに」


「命だ。英五を俺が殺す。人間界で。証人に、親族がいる。血縁関係者に見守られながら、英五を殺すことだ」


「うわあ。悪趣味〜」


「仕方がない。王の希望だ」


「で、お爺ちゃんは魔界でめでたく結婚となる予定だったと」


「あぁ。英五の了承も得ていた」


「じゃあなんで、殺してないわけ」


「殺す殺す言うな。儀式だ。儀式は成人まで待つ予定だった。残りの1年半程、麗は家族と過ごすのを望み、俺は俺で魔界の皇族で、人間界にはびこっているわけにもいかなかったからな」


「で、お爺ちゃんの20歳の誕生日に迎えに来たの?」


「あぁ、そうだ」


「あはははははははは!!!!60年経っちゃってるじゃん!!!!そんでお爺ちゃんは妻子持ちどころか孫までいたと!!??」


麗は爆笑する俺をみて、目を見開いたのち睨みつけた。睨みつけられた瞬間目が合う。

黒い瞳の中に、赤い揺らめきが見えた。

蝋燭に灯る火が、風に晒されているように小さく小さく揺れていた。


「その目は、カラコン?」


麗の瞳は美しすぎる。俺は瞳に宿る小さな炎に吸い込まれそうになりながら、問いかけた。


「から…こん?」


「はは、まあいいよ。明日、お爺ちゃんに詰めてみれば?気が済むまで話し合うといいよ。仕事は大丈夫なの?」


「あぁ、すまない。しばらく休暇とする。英五と話が済むまで滞在させてもらっていいか」


お爺ちゃんにとっても、俺やヘルパーさん以外と話すことはいい刺激なはずだ。


俺は麗を客間に通すと、タオルやら歯ブラシを渡してもてなした。この人は怪しいけど、何故だか見捨てる気にもなれない俺だった。

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