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天使の介護  作者: ひるね
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バラの花束

「うん、キマってるよ~80歳には見えない!」


鏡の前で車いすに座った祖父の髪を整えた。

白髪だが、ふさふさの髪の毛はお爺さんというより、ダンディなお爺様というところだ。


「何歳に見える?」


「ん~75くらい?」


「・・・意味ないな。60歳くらいに見えんか」


「ちょっとそれは無理があるな~」


祖父は本気で60代に見られたいらしく、おめかしした日には年齢を必ず聞いてくる。


「俺は本当に気持ちは25歳くらいなんだよ」


はっはと笑う祖父は今一度ネクタイを整える。

地元の中堅銀行員だったのもあってか、祖父はスーツが好きだ。

22歳で就職してから60年以上スーツで過ごしてきた祖父にとっては、部屋着より落ち着く装いらしい。


【焚火】という店は、うちから徒歩10分くらいの場所にあるパブ?だ。

住宅街を抜けると小さな商店街があり、新しく建設されたマンションの間にひっそり看板を出している。

ウイスキーを好む人が集うお洒落で小さな店で、先代のロムさんが亡くなってからは親戚のカイくんが営んでおり、最近は流行りの若者向けのワインも置かれている。


そのためか、年齢層がグチャグチャな店にはなっているがまったりと飲みたい人にはうってつけの店なのである。


祖父はロムさんと30年来の付き合いで、ロムさんの葬式には行かないと大騒ぎするくらい仲が良かった。


「英五さん、おっくん!いらっしゃーい!」


本日貸し切りの札を落とさぬよう木製の温かみあるドアをゆっくりと開けた。


【英五さんお誕生日おめでとう】


中は、手作り感満載のTHE誕生日会会場が設営されていた。お誕生日おめでとうの文字は、文字を書かなくなってしまった令和の40代で筆記されたものだろう。


「こりゃどうもどうも。悪いね、もう夜は歩くのやめてるから車椅子だ」


「いえいえ、楽にしてくださいね」


カイくんはヤサ男らしい柔らかい笑みを浮かべて祖父のいつもの席を案内してくれた。ロムさんが店主の時はカウンターで飲んでいたらしいが、もうカウンターは勇退したんだとか。


カウンターから近いテーブル席の上座は椅子が取り払われており、祖父のウイスキーセットが置かれていた。


「誕生日くらい僕に作らせてくれればいいのに」


カイさんは笑顔で氷を持ってくると、祖父に文句を言った。


「ねー?おじいちゃん、そんなたくさん飲まないんだしカイさんにやってもらえばいいのにね」


「いいんだよ。ボトルってのは自分のペースで飲むから楽しいんだ」


カイさんが入れてくれた削られた氷山の一部の様な氷の入ったグラスに、祖父はゆっくりとウイスキーを注いだ。

良い意味の氷山の一角。


「おっくんはビール?」


「あ、うん。ありがと~でも小で。あとでどっかの爺さんがシャンパン開けるでしょ」


俺は自らカウンターへ向かい、カイさんから小さめグラスビールを受け取った。カイさんはイケメンだが、つかず離れずな接客で、とても通いやすい店だ。ロムさんが営業している時の事情はよく知らないが、今の焚火にはロムさんとはまた違った居心地の良さがあるらしい。


「おめでとう、英五さん」


「おめでとう~」


近所に住む常連さんが続々と集まって来た。

魚屋の店主。スナックを経営している妖艶なママ。

最近常連になりつつある30代の女性。


みんなプレゼントや花束を抱えてお爺ちゃんに挨拶をする。

お爺ちゃんってホント人徳あるなぁ。

俺のほうが若くて可愛いはずなのに、おじいちゃんのおまけとして認定されている気がする。


お爺ちゃんは地元の経営者にも人気があるが、若者の相談役としてもとても支持されている。一度秘訣を聞いたことがあるが、「説教をしないこと。自論を言わないこと」だそうだ。

なんでも、自分よりちょっと若い大御所俳優の受け売りらしい。


「はーい、ケーキの登場です~」ケーキが運ばれてくると同時に店が薄暗くなった。


ハッピバースデートゥユー

ハッピバースデートゥユー

ハッピバースデートゥユー


ハッピバースデーディア 英五さーーーん


みんなが歌い、お爺ちゃんが満足気に息を吸い込んだ時、木製のドアが勢い良く開いた。


「英五!!!!!!!英五!!!!!!!!!!!」


みんなが一斉に振り向いた先には、バラの花束を抱えた、細身の若い男が息を上げてお爺ちゃんの名前を呼んでいた。


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― 新着の感想 ―
xから来ました。 まさかの展開にドキドキです。! 80歳の誕生日に祖父が「魔界に彼氏がいる」と告白するという衝撃的でコミカルな導入から始まりながらも、実際に現れた悪魔と認知症を患う老人、そして戸惑いな…
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