姫瓦新太の憂鬱
その日の放課後、俺はサッカー部の部室の中で、数少ない男友達の淀村荒季と話し込んでいた。
「って感じで、今日の昼休みもひと悶着あったんだよ」
「あはは……新太も苦労するな」
苦笑いを浮かべる荒季は、練習着に着替え終え、スパイクを履きながらそう答える。
「ただ、加恋ちゃんみたいな美少女にそれだけ愛されるてるんだし、あんまり文句は言えないんじゃないか?」
「いやいや、そりゃ加恋は可愛いけど……。ここまで人間関係を制限されると、日常生活に支障が出かねない。荒季だって何とか許してもらってる現状なんだぞ?」
「あれは苦労したなぁ……男だから、って理由だけじゃ許してもらえなくて、俺がサッカーにしか興味が無いって力説してやっと許してもらえたんだっけか。高1の夏前だから……ちょうど1年くらい前か?」
「そうなるな」
俺たちのため息が重なった。
説得しようとしても聞かず、俺たちも負けじと食い下がってやっとも思いで説き伏せた。
あんな面倒なことにつき合ってくれた荒季には本当に感謝するしかない。
「いつからだったっけか、加恋ちゃんがそんな風になったのって」
「さあ? 気付いたらあんな感じだった」
「酷くなったのは?」
「中1くらいからだろうな」
「思春期入ってからってことか」
「思春期が原因なのかぁ?」
「分からんけどな。でも、加恋ちゃんの恋心がしっかりしてきたのがその頃なのは確かなんじゃないか?」
「あー……分からなくはないんだけどさ。荒季も知ってるだろ?」
「あれで加恋ちゃんとは付き合ってない、どころか告白もされたことは無いってやつだろ? 俺未だに信じられねぇよ」
「俺も不思議ではあるんだよな。やっぱり本当は俺のことなんて好きじゃないんじゃないかって思ってる」
「それはない」
荒季は即刻否定したが、本当に怪しい。
もう高校2年生。加恋が俺に偏愛をぶつけ続けて5年目になるのだが、実は好きだと直接言われたことは1度も無いのだ。
もう、俺を好きなふりをすることによって別の目的を達成しようとしているんじゃないかと思っている。
「っと、俺はそろそろ時間だから行くぞ」
「あー、もうそんな時間か。いつも居座って悪いな」
「別にいいぜ。新太も土日は試合の準備手伝ってくれたりしてるし、監督も公認だからな。またいつでも愚痴くらいなら聞くぞ。半分くらい惚気な気もするけど」
「んなわけないって。何なら変わるか?」
「いや、やめとく。その任務は新たに一任する!」
「ちょ、おい! 行きやがった……」
準備を終えた荒季は颯爽と部室を出て行った。
「それじゃあ、俺も帰るかな」
鞄を持ち、部員でもないのに入り込んでいたサッカー部の部室を後にした。




