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お父さん救出大作戦その4、もしくは誕生日の人は1個多くハンバーガーを食べても良いこと


 とても小さなコンピューターがあった。


 キーボード、なのだろうか。6つの大きめのボタンが、赤、青、緑、黄、橙、紫と並んでいる。画面も小さめだが、何故かブラウン管だった。


 隣のコンピューターは数字ボタンになっている。表示は平面ディプレイ、隣のより少し大きい。


 隣、というのはやや不正確で、コンピューターたちは大きくなるに連れ、高さも少し上に置かれている。床がないので、少しずつ高いところに置かれている。


 キーボードも3個目は16進キーボードで、さすがにこれはおかしいだろうとユータは思った。でも、キーボードも段々キーの数が増えて、6個目のコンピューターはフルキーボードになっていた。


 その後は? 少し局面を帯びたヘンなキーボードもあったが、8個目のハズのその場所には、もうキーボードはなく、テーブルに一組のグローブが置かれているだけだった。表示装置のほうも次第に大きくなっていたものが、もう無くなっていた。


 9個目のテーブルについたベッコウが右手をすっと上げる。切り裂かれた空間が四角に空いて黒っぽい文字列が流れ出した。


「あ、そこ腰掛けていいよ」


 ベッコウの指した先には細長い椅子があった。ユータは椅子の脚にわたされた珊に足をかけると、身体をひねって腰掛けた、椅子の座は子どもにも狭いぐらいで、お尻を入れるのがやっとだ。ユータは左のひじ掛けにもたれてベッコウを見やった。


「ああ、それ、やっぱり、ユータなんだ」ベッコウが椅子にはまったユータを見て笑う「インチさんが、毎年コンピューターくれるのに、今年は椅子だったから、ヘンだなあと思ってたんだ」


「今年の誕生日プレゼントがボクだったってこと?」


「まーさか」ベッコウは両手を広げながら肩をすくめて笑う「ユータがみんなのモノだってことぐらい知ってるよ。でも、まあ、インチさんらしいな、と思ってさ」


 そう言いながらベッコウは笑う。ベッコウの眼鏡はとても大きいが、彼女の瞳が、素敵なことを見つけたときに見開かれる様に比べたら、さほど不自然ではない。


「インチおじさんは、お父さんの友だちなんだよ」


「知ってる」ベッコウはきゃらきゃらと笑う。でも、すぐ暗い顔になってつぶやいた「ワタシもインチさんのこと、パパって呼びたいんだけど…、イヤだって言うんだよね。どうしてだろう?」


「パパじゃないからだろうね」


「でも、ほとんどパパみたいなもんなんだよ?」


「じゃあさ、ほとんどパパ、って呼んでみたら?」


「あ、それいいね」そう言いながらアマンダは目をまんまるにした「それって、ほとんど至る所で連続、みたいじゃない。こんど、呼んでみよう」


 ユータと会話をしながらアマンダはしきりに虚空をこねくり回していたのだが、やがて薄ぼんやりと四角の内側に像が結実してきた。どこかの部屋のようで人影が見える。


「ねえ、ユータのパパって、コレ?」


 焦点があったその人物は、両手を後ろに回して、両足首をくっつけたヘンな姿勢でスクワットをしている。終始笑顔でいるのが、気持ち悪いと言えば気持ち悪い。


「ああ、それ、ソレ」ユータは椅子から立ち上がった「とりあえず、ソコに行こう…、あれ?」


 ユータはあたりを見回し、寄り添って眠るパピヨン(トッペン)ヨウム(コイントス)を見つけた。ベッコウとふたりでのぞき込む。


「やけにおとなしいと思ったら、寝てたか」


「どうしよう? おいてく?」


「さすがに、それは…」


「おーい、起きろ、コイントス」ベッコウはコイントスのくちばしをつかんで持ち上げた「でかけるよ」


 コイントスはくちばしを押さえられて声が出せない。かわりに羽根をばたつかせて暴れるが、ベッコウはヘイキのへーだ。頭上の騒ぎに驚いてトッペンも右往左往しだす。


 他の二人の相手をベッコウにまかせたユータは、適当に空間を歩き回ると足下に右手を突き刺した。そのまま伸び上がって手で縦に空間を引き裂く。手首を返してそのまま右へとなぎ払い、半歩進んでさっきとは逆に下方に手刀を向ける。上に切り裂いた稜線と並行に空間を分断すると、始点へと手のひらを返して四角を切り取った。


「取っ手があるほうがいいかも」ユータは腰のあたりに右手をかざして左手を軽く添えた。こぶし大の突起がせりあがる。できたばかりの取っ手を握って引くと…


 ドアみたいな形が外れて、ユータが取っ手から手を離すと床みたいなところにころがった。


 ユータはバツの悪そうな顔をベッコウに向ける「ごめん、蝶つがいつけるの忘れた」


「べつにいいよ。そんな何度も使うものじゃないし」やっとおとなしくなったヨウム(コイントス)パピヨン(トッペン)を両手に抱えて、ベッコウが近づく「そんなことより早く行こう。放っておいたらユータのパパの太ももパンパンになっちゃうよ」




 右に曲がる廊下を進む。今度はユータが先頭だ。いつまでも抱っこしてると疲れる、とベッコウはとうにヨウム(コイントス)パピヨン(トッペン)を放り出している。


「セドリックさんがユータのパパだったんだあ」


 ユータの隣に進み出たベッコウが話しかける。


「最初、気づかなかったよ。セドリックさん、あんまりワタシのところには来ないから」


「お母さんは、けっこう来てた?」


「来てた、来てた」ベッコウはうれしそうだ「パレアナさんは、よく来てくれてた。インチさん――ほとんどパパの次くらいに来てた。あと、シルベさんとリリオンさん」


「みんな友だちだからね、あの人たち。あと、シルベ・キッショウ先生は、ボクの小学校の先生なんだよ」


「シルベさんは、ワタシもそのうち小学校に行くんだ、って言ってた」


「まあ、先生なら、そう言うだ…、わっ」


「じゃじゃーん、お昼だよー、みんなー、ハンバーガーだよ、ハンバーガー」


 いきなり現れたお母さんにユータは驚いた。お母さんはいつだってこうだから、普段は驚かないけれど、それにしたって右のドア(ヽヽヽヽ)から現れたので心底驚いたのだ。


 右のドアなんか開くわけないじゃないか、と思うのだが、開いてしまったものはしょうがない。


「はい、これはユータの分」


 お母さんはユータに紙に包まれたハンバーガーを手渡す。


「はい、これはベッコウちゃんの分、と、これもベッコウちゃんの分」


 お母さんはハンバーガーを2個ベッコウに手渡した。


 お母さんのハンバーガーはとても大きい。ユータですらまるまる1個食べるのはたいへんなくらいだ。


「あのぉ、パレアナさん、ワタシ…」


 ベッコウは困っている。明らかに食べきれない量のハンバーガーを両手に持って交互に見つめる。それからユータのほうをチラリと見やり、おずおずと右手のハンバーガーを差しだそうとした。


「ダメェー」


 お母さんの大声に、ベッコウだけでなくユータまでビクッとした。


「今日はベッコウちゃんのお誕生日だから、お誕生日だから1個多いの。これは決まってることなの」


 そしてベッコウに向かってニッコリと微笑む。


「でも、お誕生日にハンバーガー1個多いだけってことは、ぜったいないから。ケーキもあるし、御馳走だってたくさんあるの。だからね、安心して。みんな一緒に帰ってきたら、みんな一緒にパーティーしよう」


 それからトッペンとコイントスに向かって言う。


「あー、キミたちはご苦労さま、先に一緒に帰るから、ついてきて」


 はーい、はーい、と良いお返事がふたつ。お母さんの後ろにパピヨンとヨウムがついて、ドアがパタンとしまった。



次回投稿は01/17 18:00の予定です

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