3-35 口ではドウとでも
鈴木千鶴って後来屋が仕置した、鈴木 和人と和恵の次女だろう? 関東医療少年院に収容されている。
「腸貫、どう思う。」
『報復請負』の長、魂切が問うた。
「依頼人は未成年者。家族構成、親の年収も微妙。搾り取るのは難しいでしょう。」
報復請負は昭和中期創業の『未認可』暗殺ギルド。
闇サイト経由で営業し、法外な依頼料を請求。入金確認後、裏取りしてから追加料金を請求し、支払われれば仕事する悪徳企業。
表稼業は『品川貿易』。玩具、主にトイ銃の輸入販売会社。裏では本物を扱い、自社ビル地下には射撃場がある。
販売はインターネット、支払いはクレジット決済のみ。本社二階に『会員制』展示販売場と試射場があり、一部マニアさんに大人気。
「それに、こちら。」
調査報告書の一部に、赤線が引いてある。
「ファッ。」
報復請負は幾ら金を積まれても、認可企業絡みの依頼は一切受けない。天敵は『鬼丸』、鬼門は『一九屋』。
鬼丸からは二度、廃業寸前まで追い込まれた。
一度目は人外のみ消され、二度目は・・・・・・。数年後、やっと品川貿易を創立。
一九屋からは一度、人外従業員を浄化されている。
問題は二度目。魂切と腸貫を再起不能寸前まで刻み、魂を肉団子に包んで釜茹で。以降一九屋および関連各社、関係者にも手を出さなくなった。
「引く。この件から引くぞ、引くんだ今すぐ。」
「ハイッ。」
魂切は黒毛碧眼の白人。
中身は渡航先でスパイ容疑を掛けられ、処刑された元、雑誌編集者。旧姓、小田切環。魂を食らおうとした悪魔を取り込み、鬼火化。
真犯人だった諜報員の体を奪い、鬼化した。
腸貫は紅毛碧眼の白人。
中身は渡航先でスパイ容疑を掛けられ、処刑された元、新聞記者。旧姓、渡谷貫。魂を食らおうとした悪魔を取り込み、鬼火化。
こちらも真犯人だった諜報員の体を奪い、鬼化した。
「死にたくない死にたくない、死にたくない死にたくないぃ。」
ブツブツ言いながらカタカタと、端末を操作する腸貫。
「ヒャァッ。」
キーボードから指を離し、固まる。
「どうした。」
魂切が駆け付け、画面をチェック。
「も、もうバレたのか。」
ヘナヘナ、ペタン。
プルルルル。プルルルル。
「会長室です。」
震える手で会長室の受話器を取り、応答した腸貫。
「私、鬼丸の鬼十と申します。報復請負の長、魂切さま。」
ブンブン。ブンブンブン。
「首を横に振っても無駄ですヨ。」
「ヒィッ。ウチは引きます、手を出しません。ですから、どうか仕置しないでください。」
そう言って魂切が、パソコン画面に頭を下げた。腸貫もバッと頭を下げる。
「口ではドウとでも、ねぇ?」
『ねぇ?』の所が、妙に色っぽい。
「契約書、誓約書、何でも書きます。」
「暫く、そのままで御待ちください。」
魂切と腸貫が早口で言い、行動に移す。




