3-22 可哀想に
卜察や本店は零細企業だが、癙制御は中小企業。従業員の大半が、やっと入社できた会社で潰された人間。
働く意思はあるのに『空白期間が長いから』と切り捨てられ、心を折られた人間。体を壊すまで扱き使われ、運び込まれた病院でクビを言い渡された人間。
仕事はキツイが完全週休二日制、各種保険完備。勤務時間は九時から十七時で残業ナシ。給与は職歴や年齢、取得した資格などで変わるが、その辺の会社員よりシッカリ稼げる。
新卒と第二新卒を採用しない理由は、他でも雇ってもらえるから。
高田馬場に地下一階、地上五階建ての本社ビルがある。この本社ビル、本当は地上十階建て。上階は鬼専用なので、人間には見えないし入れない。
上階一階は卜察や本店の事務所と、倉庫という名の食糧庫。上階二階には研修室と遊戯室。上階三階から五階は社員寮で、屋上は公園のようになっている。
トントン。
「失礼します。」
癙制御の総務部長で卜察や本店の社員、多噛が役員室に入ってきた。
「依頼者の裏調査が終了しました。」
神保美穂、年齢二十二。佐藤 稔と愛人契約を結ぶも、口約束のため進展ナシ。
契約者は他に二人。高梨美智代十九歳、三谷典子二十歳。職業は三人とも、ナイトクラブのホステス。
美穂の娘、美瑠。美智代の娘、瑠美、典子の息子、稔典の父親は不明。三人を世話していた無戸籍児は警察に保護され、その大半が児童養護施設入り。
美瑠たちも保護されたが、それぞれの母に奪還される。理由は、佐藤家との交渉材料にするため。
現在、瀕死の状態。
「佐藤稔。はて、どこかで聞いたような気がするが。」
「束涅さま。佐藤稔は明治の森高尾国定公園で発見された、あの骸の主です。」
「そうか。ありがとう、束幹。」
トントン。
「失礼します。」
癙制御の人事部長で卜察や本店の社員、絶邪が役員室に入ってきた。
「急ぎ申し上げます。三谷稔典、享年二。高梨瑠美、享年一。神保美瑠、享年三。以上三名、歌舞伎町を彷徨う鬼火に食われる前に吸収。妖怪化すると同時に飛び出し、生者を食らおうとしました。現在、特別研修室に隔離中。」
「可哀想に。」
束涅が呟く。
「美瑠をチラッと見ましたが、酷く痩せていましたからね。落ち着くまで、かなり掛かるでしょう。」
そう言って、束牢が目を伏せた。
「生者を食らおうとしたダケなら、まだ間に合います。一九屋に連絡してから名古屋へ連れて行き、浄化して貰いましょう。」
「束幹、それは難しい。そうだな、絶邪。」
「はい。三鬼とも生者に噛みつき、その生気を食らいました。」
直ぐに両の頬を押さえ、口を開かせたので食らってはイナイ。けれど生気を齧ってしまった。
地獄に送り届けても死後裁判を受けられず、三鬼とも処分されるだろう。
「奉行所に突き出しても、代官所に届けても白洲で裁かれる。最悪の場合、餓鬼送りになるだろう。」
束幹が頭を抱える。
「救う方法なら、まだ一つ。高梨美智代と三谷典子に営業をかけ、依頼させれば良いのです。」
束牢が言い切った。
「妖怪遺児保護法か。」
束涅の目が光る。




