3-19 心強い味方
散歩から戻った佳子は思い切って充、真、圭に『学校で虐められている』と伝えた。
捨てようと持ち出した証拠を見せて。
「お兄ちゃん、私ね。今日から学校に行かない。」
「うん、それが良い。」
圭は中学二年生。男だが同級生から嫌がらせを受け、ウンザリしていた。その度に心配になる。佳子がクラスメイトに囲まれたら、と。
集団心理は恐ろしい。一人だと『悪い事だ』と思う事でも、複数だと躊躇なく行動に移す。飢えた狼に襲われた子羊を、他の子羊に救い出せるワケが無い。
最悪の場合、動画を。
「一緒に受験勉強しよう。」
「充兄ちゃんも学校、休むの?」
充は高校三年生。いろいろ言うヤツは居るが皆、受験生なので落ち着いている。それでも思うのだ。もし受験生で無ければ、と。
「オレも休みたい。」
「真、お前。」
真は高校一年生。鬱陶しいホド、卑猥な事を言われている。高一男子でもコレなのに、小学生男子だとドウなるか。なんて考えるマデも無い。
兄バカと思われるだろうが、佳子は世界一可愛い女の子だ。シッカリ者なのにポワンとしていて、『お嫁さんにしたい』と思っている男が大勢いるハズ。
「佳子を娶りたくば、この兄を倒してみろ。」
・・・・・・。
「佳子ちゃん、お願い。そんな目で見ないで。」
「まこ兄ぃ、ムリ。今のはオレでも引く。」
「圭くん、ひどぉい。お兄ちゃん泣いちゃう。」
「プククッ。」
「おっ、姫が笑ったぞ。」
低血圧で早起きが苦手な啓子が、コーヒーを飲む前にシャキッとした。
佳子が『何かを隠している』と気付いていたが、こんな事になっているとは思わなかったから。
ノートは破られ鉛筆は折られ、体操服は切り刻まれて泥だらけ。教科書には太字マジックで信じられないような、恐ろしい言葉が大きく書かれている。
「酷い。」
「私たちもね、同じ事を呟いたわ。」
愛美が微笑む。
「私。」
「待って、泣き疲れて眠っているから。」
明美に止められ、啓子の顔色が変わる。
「まさか!」
「違うわ、無事よ。」
真樹に言われ、ヘナヘナとしゃがみ込む。
「良かった。」
充は自由登校日だったので、自室で勉強中。真と圭は登校した。
小学校へは朝が弱くて起きられない啓子に代わり、愛美が『体調不良』を理由に欠席連絡済。
「佳子ちゃんなら大丈夫。今朝、犬の散歩中だった智さまに声を掛けられて、全て話したそうよ。」
「そう・・・・・・エッ。智さまが、犬を?」
真樹に背中を摩ってもらい、少し落ち着いた啓子が驚く。
「ゴールデン・レトリーバーの仔犬ですって。撫でさせてもらったそうよ。モフモフで可愛かったって、楽しそうに言ってたわ。」
明美がニコニコしながら、明るい声で言った。




