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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第一部 悪因悪果
8/99

1-8 勤務中ですので


オーバーステイ。外国にビザの期限を超えて、不法滞在するやからが増えている。


妖怪はウチの管轄。対象を連行し投獄、聴取して罰金を支払わせ強制送還。コレを淡淡たんたんと実行すれば良いのに、上がうるさい。



口には出さないが『清掃業者に』と、強く願う職員は多い。悪太郎なら認定企業だし、何でも直ぐに処理してくれる。


その分、高いケド。






一九屋いくやさん。言葉が通じない相手を黙らせる方法、ご存じありませんか。」


長時間勤務で、疲労困憊の様子。


「ウチは仕置屋なので、その手の依頼はチョット。」


と言いながら朱里あかり三稜草みくりに、個別包装された蒸菓子を出した。


名古屋名物『ういろう』である。






『ういろう』はモチ米粉、ウルチ米粉、黒砂糖、葛粉くずこなどを練り合わせて蒸した菓子。白砂糖を用いたモノや抹茶、蕨粉わらびこなどで風味をつけたモノもある。


山口、名古屋、伊勢の名物で『ういろ』、『ういろうもち』とも言う。



一九屋のおもては、名古屋の『鳴海社なるみのやしろ』。オヤツの定番はモチロン、ういろう。


腹持ちが良いので小腹がいた時、手軽にパクンと食べられるよう、常に落ち歩いている。






「勤務中ですので。」


出た! 断りの常套句じょうとうく。公務員なので受け取れません。


「そう、ですよね。すいません。」


美味おいしいのに。


「いえ、その。お気持ちだけ有難く。」


ショボンとする朱里に、三稜草が慌てて声を掛けた。






この『ういろう』は鳴海屋の銘菓。隠り世にある自社工場で毎日、数量限定製造している。


材料は全て国産品。値が張るが飛ぶように売れ、予約販売に切り替えたのは四十年前。



鳴海屋は鳴海社の系列企業の一つ。


従業員は皆、隠り世認定企業に保護された孤児。大半が成鬼しても引き続き、鳴海屋で働いてくれている。



一日六時間労働、完全週休二日制。各種保険完備。福利厚生も充実している、隠り世屈指のホワイト企業。


文字通り、アットホームで働き易い会社デス。






ポタン、ジュルリ。


鴉虎あこさま、お久しぶりです。」


「お久しぶりです、ハラスーさま。」


「朱里。」


「アッ、はい。鴉虎さま。よろしければ、お召し上がりください。」




和風味の代表『抹茶』は葉緑素、食物繊維が豊富。


季節限定『いちごミルク』は洋風の味で、緑茶にも紅茶にもピッタリ。


甘納豆が彩り良く透けてキレイ! 『甘納豆入り』は、和風ケーキのよう。




「よっ、宜しいのですか。」


お目目キラキラ。


「はい。」






鳴海屋は『ういろう』の他に『煎餅せんべい』、『霰餅あられもち』なども販売中。


いづれも数量限定、予約販売。年に一度、隠り世デパートの『全国銘菓即売会』で店頭販売されるが、朝一で並んでも買えるかどうか。



そもそも三稜草は人間。陰陽師おんみょうじ末裔まつえいだからと、気軽に隠り世へ行けない。


パソコンの前で本気を出して、人の世から隠り世にアクセス。ホームページを開いて予約しても、商品が届くのは数カ月先。






「良い天気だ。」


三稜草は笑顔を貼り付け、その仮面の下で涙する。


「室長、書類たまってマスよ。」


「はぁい、戻ります。」


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