1-7 急ごう
悪太郎は不用品を回収し、処理する掃除屋。骨董でも武器でも何でも、割増料金を支払えば処分してくれる。
虚偽申請すれば恐ろしい事になるので、依頼は慎重に。
長の鴉塟は死神を引退したが、錫杖に刃を仕込んでおり、どんな魂も切り取る事が可能。
相棒の鴉虎は虎、大烏、蝮の合成獣。
鴉塟に保護され、生活を共にする鴉虎は鋭い牙と爪、自在に飛べる翼まで持つ猛獣だが、狩りより魔術が得意。
当たり前だが仕事以外で、生きた人間を食らう事は無い。
「鴉虎の体は虎で翼が生えていて、尾の蛇は利き毒が出来るし闇にも強い。歌舞伎町の闇は独特だからね、間違える事は無いよ。」
「そう、だよね。」
「守衛狐は隠り世認定企業の正社員なら、妖怪にも怪物にも情報提供する。鴉虎なら、もう何か掴んでいると思うな。」
東京二十三特別区役所、二十六市役所の屋上に、人には見えない社が在る。何れも無神だが、守衛の大半は妖狐。
李社の神使は三妖とも狐。コンコン伝言板で最新情報を入手できるので、仕置屋や裏取屋の多くが妖狐を雇う。
「急ごう、朱里。」
「えぇ。」
都庁の北を直走り、新宿駅に到着。
地下迷宮から濃い闇がドクドクと、地上に流れ出している。ウゲッとなったがグッと堪えて、構内を突っ切った。
北東に進み、新宿区役所の屋上へ。と思ったのだが思いがけず、後来屋の長に会う。
「おや、一九屋のハラスーさん。あなたは、朱里サンだったかな。」
「はい。お久しぶりです、光闇さま。」
後来屋は江戸時代末期創業の仕置屋。
シッカリ裏取りして、金になりそうなら依頼を受諾。邪術で的に傷、病、死などの不幸、災害を与える。
厲嚮寺系列なのに念仏を唱えられない、僧侶のコスプレをした妖怪集団。
その大半は妖犬で、的を髪・爪・排泄物といった身体の一部や、身に付けていた物で特定。
解体販売許可を得ているので、依頼内容に偽りがあれば合法的にバラせる。
「直ぐ終わると思ったのに、予定通りに進まないモンだね。悪太郎サンが目を光らせているよ。」
「お教えいただき、ありがとうございます。」
「どういたしまして。では、また。」
後来屋が動いた。悪太郎に依頼せず、様子見する気だろう。
アッサリ引いたのは逮捕者の中に、的や関係者が居なかったから。若しくは的の確認。
コブラたちがシュルシュルしている。
多分、何か一つ受けたんだ。遺族か家族に二度三度と依頼させ、ガッツリ稼ぐんだろうね。
「朱里。ほんの少しだけ、同じ匂いがしたよ。」
やっぱり。
「どうする?」
「屋上に行こう。」
新宿区役所、妖怪対策室長の三稜草が遠くを見つめている。その目は虚ろで、抜け殻のよう。
「おはようございます。」
「・・・・・・一九屋さん。おはようございます。」
休日返上で働く陰陽師の末裔、三稜草は人間。見えないモノが見えるが、式を従える事は出来まセン。




