1-6 闇を見た
狼鬼は裏取屋の長だが、鬼神でも在らせられる。
神通力を使えば狼狐に魂を齧られ、気絶している男の胃に直接、大量の酒を流し込むなど簡単カンタン。
通報から十分後、覆面パトカーが二台到着。
第一発見者は鬼の従業員で、人の姿に化けてから『朝の御参りの前に、境内でヘンタイを発見した』と証言。
因みに盗撮犯は、二人とも『李や』の宿泊客では無い。
「ホームページやパンフレットの写真を見て、外から回れると思ったのカナ。」
第二神使、蕗苑が首を傾げる。
「盗撮するためにワザワザ、日本まで来たのかな。」
第三神使、絽祈が首を捻る。
変態二人は少し離れた場所に建つ、ビジネスホテルの宿泊客だった。
ホテルで海パンを履いてから外出し、コンビニで買った缶ビールをガブガブ飲みながら移動。空き缶は、李社までの道中にポイ捨て。
服を脱ぎだしたのは、境内に入って直ぐ。賽銭箱の前でビールを飲むまで待って、その魂に食らいついた。
野太い声を聞いたのは、朱里の他にも数名。『李や』に落ち度は無いが、朝食にデザートが付いた。
「美味しい。」
デザートを味わう朱里。
「美味しいね。」
妖怪用の腸詰を味わうハー、ラー、スー。
『李や』の裏庭には宿泊者しか利用できない天然温泉があり、四季折折の風景が楽しめる。
食材は全て日本産で、本格的な懐石料理を味わえると好評。
スタッフの大半が鬼で、英語の他にフランス語、スペイン語にも対応。板長は人間だが、食材にも味にも妥協しない『仕事の鬼』。
そんな専門家たちが心を込めて用意した、素晴らしい御馳走を堪能した朱里とハラスー。お腹も心も満たされ、元気いっぱい。
今日も元気に働くぞ! オウッ。
「うわぁぁ、ドロッドロ。」
高井戸から西新宿に入って早早、都庁から溢れる闇にクラクラする。
「朱里、新宿区役所に行こう。狼狐さまから今朝、伺ったんだ。『悪太郎が今、新宿を調べてる』って。」
『悪太郎』は清掃屋で、室町時代創業の老舗。
代官所に『回収および廃棄物処理』で届けている、隠り世公認業者。何でも回収処理するが、依頼内容に偽りが有れば違約金を請求。
期限内に全額支払われなければ、一族郎党に難が及ぶ事で有名。
長の鴉塟は死神だが、表では『窆氶寺』の住職。もちろん人前に姿を現す事は無い。
窆氶寺は奥多摩町にある古刹で、境内に荼毘所を併設。骨も残らない『強火葬』や『ペット葬』を導入し、莫大な利益を得る。
控え目に言って遣り手だ。
「区役所? 花園神社じゃなく。」
「そう、区役所。昨日の夜、新宿御苑で外国妖怪が『百鬼夜行』したんだ。無許可で。」
「・・・・・・自殺願望、強すぎでしょう。」
新宿御苑は新宿・渋谷両区に跨る公園。
新宿は花園組、渋谷は千駄組の縄張り。どちらも特殊目明し軍団。隠り世奉行所から認められた、特別妖怪団体である。
つまり彼の地はホットスポット。
昼間は良いのよ。新宿区役所と渋谷区役所から、逮捕権を持った妖怪が派遣されるから。オイタすると、問答無用で連行するから。
「ドンパチが始まって、駆け付けた強面妖怪により現行犯逮捕。その中に人間が混じってたんだ。事情聴取した妖怪が、逮捕者の背後に『闇を見た』って。」
「エッ、まさか。」