2-32 ここは宮殿か?
今は男の子ですが私、前は社長令嬢でした。パーティなるモノにも数回、出席しています。だけど、これが本物のパーティなんだね。
豪華なシャンデリア、芸術品のような御馳走。オーケストラの生演奏つき。ここは宮殿か? 世界が、全てが輝いて見える。
ハッ! 落ち着くのよ幸子。智クンは御曹司。サーモンや生ハム、ローストビーフ。なにアレ美味しそう。
じゃなくて、軽食コーナーに陣取ったり?
「どうしたの、幸子。」
ねぇジョン。あの御馳走が軽食なら、サンドイッチや唐揚げの立場はドウなっちゃうの。
「お弁当?」
そうそう、お弁当の定番メニュー。だし巻き卵、タコさんウインナー、ハンバーグも外せナイね。
井戸端会議で鍛えた対人スキル、商店街で習得した交渉術、日日の散歩で培われた感性を総動員して、パーティーを楽しむ幸子とジョン。その姿は明朗快活。
智の株がググンと上がり、両親も大満足。
世田谷の『沢柳学園』、豊島の『目白学院』、港区の『福沢塾』に通っている子女が多く、『荏原学問所』の凄さを再確認。
これまで培った経験を活かし、智の『明るい未来を守ろう』と再度、心に誓った。
一方、逮捕された三人は『罪の重さ』に押し潰されて・・・・・・ない。
鈴木 和人は横領やら脱税やら、いろいろバレて絶望。和恵は現実逃避。千鶴は癇癪を起こし、医療少年院で大暴れ。被害者続出。
「酷い話ですね。」
憑払社の奥で休憩していた螢が、溜息交じりに呟いた。
「そうでしょう? 私もね、ビックリして二度も裏取しましたよ。」
帳簿をつけていた螢に『お茶しませんか』と声をかけ、緑茶を飲みながら煎餅を食べていた洸が憤る。
螢は半妖だが九尾の白狐。
祠の主管者として『神付合』や『隠交流』『各種手続』などに加え、祠の家事全般も担っている。
洸は妖犬。
『憑払社』の祠憑き兼、『歯臼上等』の隠密。表と裏が逆転しているが、全く問題ナシ。祠憑きは神使じゃナイから。
「それにしても、この記事。」
ちゃぶ台の上に広げられた週刊誌。どれも見てきたように詳しく書かれているが、どこまで本当なのか分からない。のだが、にしてもヒドイ。
「幸子さんの成績表とか、文集の内容とか載せる意味、あるのかしら。」
ありません。
「参列者から話を聞けなかったのでしょう。」
「でもコレ、盗撮よね。」
はい、その通り。
螢は鳴海の社の司、江島から聞いていたのだ。『一九屋が、あの件を受けた』と。
螢は『あの件』が、どの件か直ぐに気付いた。理由は簡単。その依頼を受ける社が無く、一年も『宙に浮いたまま』だったから。
裏取屋は仕置屋より、死に立てホヤホヤの魂に出会う確率が高い。加えて『歯臼上等』は鎌倉時代中期創業の老舗。
仕置屋ではなく裏取屋だが、代官所から特別案件の依頼が、他より先に来る。
「洸、留守を頼みます。」
「えっ、螢さま。どちらへ。」
「鳴海社へ参ります。」
ニッコリ。




