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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
55/99

2-32 ここは宮殿か?


今は男の子ですが私、前は社長令嬢でした。パーティなるモノにも数回、出席しています。だけど、これが本物のパーティなんだね。


豪華なシャンデリア、芸術品のような御馳走。オーケストラの生演奏つき。ここは宮殿か? 世界が、全てが輝いて見える。






ハッ! 落ち着くのよ幸子。さとしクンは御曹司。サーモンや生ハム、ローストビーフ。なにアレ美味おいしそう。


じゃなくて、軽食コーナーに陣取ったり?



「どうしたの、幸子。」


ねぇジョン。あの御馳走が軽食なら、サンドイッチや唐揚げの立場はドウなっちゃうの。


「お弁当?」


そうそう、お弁当の定番メニュー。だし巻き卵、タコさんウインナー、ハンバーグも外せナイね。






井戸端会議で鍛えた対人スキル、商店街で習得した交渉術、日日の散歩で培われた感性を総動員して、パーティーを楽しむ幸子とジョン。その姿は明朗快活めいろうかいかつ


智の株がググンと上がり、両親も大満足。



世田谷の『沢柳学園』、豊島としまの『目白学院』、港区の『福沢塾』に通っている子女が多く、『荏原えばら学問所』の凄さを再確認。


これまで培った経験を活かし、智の『明るい未来を守ろう』と再度、心に誓った。




一方、逮捕された三人は『罪の重さ』に押し潰されて・・・・・・ない。


鈴木 和人かずとは横領やら脱税やら、いろいろバレて絶望。和恵は現実逃避。千鶴は癇癪かんしゃくを起こし、医療少年院で大暴れ。被害者続出。






「酷い話ですね。」


憑払社つきばらいのやしろの奥で休憩していたほたるが、溜息交じりに呟いた。


「そうでしょう? 私もね、ビックリして二度も裏取しましたよ。」


帳簿をつけていた螢に『お茶しませんか』と声をかけ、緑茶を飲みながら煎餅せんべいを食べていたほのかいきどおる。






螢は半妖だが九尾の白狐。


ほこらの主管者として『神付合かみつきあい』や『おに交流』『各種手続』などに加え、祠の家事全般もになっている。



洸は妖犬。


『憑払社』の祠憑き兼、『歯臼上等はうすじょうとう』の隠密おんみつ。表と裏が逆転しているが、全く問題ナシ。祠憑きは神使じゃナイから。






「それにしても、この記事。」


ちゃぶ台の上に広げられた週刊誌。どれも見てきたように詳しく書かれているが、どこまで本当なのか分からない。のだが、にしてもヒドイ。


「幸子さんの成績表とか、文集の内容とか載せる意味、あるのかしら。」


ありません。


「参列者から話を聞けなかったのでしょう。」


「でもコレ、盗撮よね。」


はい、その通り。






螢は鳴海なるみの社の司、江島えじまから聞いていたのだ。『一九屋いくやが、あの件を受けた』と。


螢は『あの件』が、どの件か直ぐに気付いた。理由は簡単。その依頼を受ける社が無く、一年も『宙に浮いたまま』だったから。



裏取屋は仕置屋より、死に立てホヤホヤの魂に出会う確率が高い。加えて『歯臼上等』は鎌倉時代中期創業の老舗。


仕置屋ではなく裏取屋だが、代官所から特別案件の依頼が、他より先に来る。






「洸、留守を頼みます。」


「えっ、螢さま。どちらへ。」


鳴海社なるみのやしろへ参ります。」


ニッコリ。


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