2-31 なるよ、お医者!
十四年間、女として生きてきた。そんな私が男になるなんて、本当にビックリよ。
最初は、ううん。今でも戸惑う事があるけど、私にはジョンがいる。何だって乗り越えられるわ。
「婚活パーティですか?」
乗り越えられる、かな。
『財閥解体』 第二次世界大戦後、連合国総司令部の命令により行われた措置。財閥を分散させ、その経済的支配力を除いた経済民主化が進められる事になった。
財閥本社の解散、財閥家族による企業支配直の排除、株式所有の分散化。
続けて大企業の分割・再編が検討されたが一部分割にとどまり、銀行が集中排除対象から外されたため、銀行を中心に大企業軍団が形成。
多くの家門が没落したり困窮したが、『お百姓さんが一番えらい』を家訓にする佐藤家は踏ん張った。
一段落すると当主は親族を集め、『母屋を渡す』と宣言。以後、横の繋がりを大切にしながら自らを『狸爺』と称し、当代を支え続ける。
先見の明があった本家当主は、商才を持つ分家筆頭当主と共に『鈴木商事』を設立。洋行帰りの親族を巻き込み、御家復興を目指す。
と同時にコツコツと田畑を買い求め、一族総出で野良仕事。イロイロあったが事業が軌道に乗り、何だカンだで大成功!
鈴木商事に旧家の出が多いのは、コネもあるケド実力よ。
「一口に旧家と言ってもイロイロあるが、どの家門も横の繋がりを大切にする。智は本家の次期当主。政略結婚してもらうが、恋愛結婚せんでも恋愛できるぞ。な、優子。」
茂が優子の手をソッと握り、微笑む。
「はい。」
『ポッ』と聞こえそうなホド、頬を赤く染めた。
ラブラブだぁ!
「仲良しだね。」
ね。
「幸子もラブラブ・・・・・・、あれ。」
どうしたの、ジョン。
「幸子は智だから、女の子とラブラブ?」
あっ。
「ボクね、幸子が男の子でも大好き。」
ありがとう。私もね、ジョンがマルチーズになっても大好きだよ。
「リボンは濃ぉい、金色にしてネ。」
うん、任せて。
「智は将来、どんな職業に就きたいのかな。」
茂に問われ、スッと背を伸ばした。
「叶うなら、町医者になりたいです。」
「町医者か。」
「素敵ね。」
二人とも、反対しないの?
「医学部に進むなら留学せず、学所から国立大学を目指す方が良いだろう。」
「そうね。」
「ありがとうございます。僕、頑張ります。」
なるよ、お医者!
本家の当主だからと、佐藤商事に入社させる気は無い。家門を次代に繋いでくれれば十分。
「帳簿をつけられる令嬢となると、限られますわね。」
「特技は暗算、趣味はガーデニングか。」
「そんな御令嬢、いらっしゃる?」
「まぁ、一人くらい。」
婚活パーティー、じゃなくて、懇親会の参加者リストを仲良くチェック。
佐藤家は大地主。トラクターの運転や農機具の手入れは出来なくても良いが、金勘定に薔薇の世話、軽トラの運転も出来なきゃネ。




