2-29 独り言
手渡されたのは『鳴海守』。社務所で授けられる御守り、『鳴海社守袋』や『鳴海社守札』とは別物。
「大切にします!」
通し番号つき契約者限定、譲渡不可の逸品。所有者を害そうとする存在を捕縛し、外部との接触を遮断する。
そんな神アイテムを持ったのは生まれて初めて。いや、死んで初めて。
「アッ、お風呂の時どうしよう。」
ファスナーつき袋に入れて、お弁当箱サイズの保存容器に入れて。それと念のため、丈夫なビニール袋に入れて括ろう。
コロコロと表情を変える幸子の隣で、ジョンが心配そうに鼻先を上げる。
当人は真剣に悩んでいるのだろうが、その姿が愛らしくて愛らしくて、つい見入ってしまった。
「大浴場や流れるプールなら話は別だけど、脱衣所に着替えと一緒に置いておけば、何も問題ナイわ。」
「はい、浦見さま。ありがとうございます。」
幼少時から虐待を受け続けると、自己評価が著しく低くなる。
笑顔を貼り付けるようになれば、死ぬ瞬間まで笑顔のまま。笑い方を忘れれば無表情で過ごす時間が長くなり、孤立無援に陥るか、四面楚歌の憂き目にあう。
「良かった。」
幸子の傍にはジョンが居て、離れて暮らす父方の親族から無条件に愛されていた。智の傍には花丸が居て、同じ敷地内に祖父母が暮らす家があった。
同居家族から虐待されていたが衣食住に困らず、名門校に通い、外出して空を見上げたり笑う余裕があった。
「すいません、もう一度お願いします。聞き取れませんでした。」
「何でもないの、気にしないで。独り言よ。」
『虐待サバイバー』。親から虐待された生き残り自ら、そう呼ぶようになったのは最近の事。
吹っ切れた? とんでもない。皆ズタズタに切り刻まれた心から血を流し、酷く歪められた魂を抱えて生きているのだ。
心を閉ざし、空想の世界に逃げ込む。悪意や敵意に曝され、感覚が麻痺する。謂れ無い非難を受けても、それを当然だと思う。
迫害され憎悪され視界が、世界が歪んで見える。
暴言を吐かれれば傷つくし、誹謗中傷されれば辛い。怒鳴り声や大きな音を聞けば動けなくなり、固まったまま涙を流す。
息をするのが精一杯。それでも歯を食い縛り、何とか生きているがフと思う。
ココから・・・・・・。
「私も偶に呟いちゃいます。」
うふふ。
「あら、お揃いね。」
繁華街のド真ん中に在る鳴海社には、昼夜を問わず多くの人が訪れる。
地神だからね。『商売繁盛』や『縁結び』は解るケド、『必勝祈願』されても困るよ。でもね、一番困るのが『縁切り』さ。
ウチの別名、縁切り神社。『どんな悪縁も断つ』なんて言われているが、モチロンそんな事は無い。依頼内容による。
神サマ始めて長いケド、叶えられない事が多くてね。
「また来るよ。」
「はい。お待ちしてます。」




