2-28 誓い
幸子の祖父母が現役を引退し、院長職に専念する事になった。『鈴木医院』は伯父の秀人が、『さくら小児科医院』は従小父の賢人が継ぐ予定。
二人とも数年前に『粕壁総合病院』から転職し、後継者教育を受けている。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん。長い間、ありがとうございました。町医者は引退しても元気でね。ニコニコ笑って、ウンと長生きしてね。」
幸子が春日部の方を向き、ニッコリ微笑む。
「ワン。」 ナガイキシテネ。
ジョンも一吠えし、キュルン。
「葬儀の夜、夢枕に立つかい?」
浦見は一九屋の長で、鳴海神ですからネ。担当地域は違うケド、根回しすればイケルよ。
「えっ、はい。お願いします。」
幸子が頭を下げ、ジョンも倣う。
荏原学問所、中等部に通っていた社長令嬢。特技は家事と見切り品の目利き。そんな幸子と愛犬ジョンの葬儀が一週間後、春日部にある鈴木本家で執り行われる。
本家は勿論、分家や遠縁に至るまで、刑事裁判について調べ上げた。結果、裁判は長期化する事。遺体も遺品も、裁判が終わるまで戻らない事を知る。
痛い思いをして、冷たい海に捨てられた幸子とジョンが、今も遺体と共に冷凍室で震えている。なのに自分たちは裁判が終わるまで、何も出来ないのか。
居ても立っても居られない気持ちになり、当主自ら警察の『なんでも相談室』に相談。春日部署経由で世田谷署に知らされ、葬儀を出す許しを得た。
「わかった。でも一つだけ、約束してほしい。」
「何でしょうか。」
「秘密、守ってね。」
キョトン。
「佐藤 智として生きている事、言っちゃダメよ。」
「はい、言いません。」
「イイマセン。」
死んだ幸子とジョンが、寿命を残して死んだ智の代わりに生きている。なんて事を知ればドウなるか。考えるまでも無い。
埼玉から東京に飛んできて、血眼になって探すだろう。
「心の準備が出来ました。悪い知らせ、お聞かせてください。」
ペコリ。
「智の身に危険が迫っています。」
前置きナシに直ぐ、本題に入る。それだけ深刻なのだろう。浦見もハラスーも、三匹の蛇まで真剣そのもの。
「本屋で暮らしている方の両親、ですね。」
佐藤 稔と愉快な仲間たちが、智くんに危害を加えようとしている。
可能性が高いのは未亜、いや稔だ。三男が弟になったんだモン。次期当主の座を奪われ、怒り心頭ってトコでしょう。
今度は私、逃げるよ。この体に指一本、触れさせない。傷一つ負わせない!
鈴木幸子、享年十四は誓います。智クンから譲り受けたこの体、何が何でも守り抜くと。
「ボクも逃げる。幸子を守る。」
ありがとう、ジョン。
「クゥン。」 エヘヘ。
キュッと抱きしめられ、ナデナデされて御満悦。
「そろそろ良いかな。」
「アッ、はい。」
「コレを常に身に付けるか、持ち歩いてね。」
浦見が袖の下から横三センチ、縦五センチの御守を取り出し、微笑みながら手渡した。
「わぁっ、可愛い。」




