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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第一部 悪因悪果
5/99

1-5 要注意


スゥ、ピィィ。スヤスヤ。スゥ、ピィィ。


「ギャァァッ。」


ももや』の裏から、野太い男の悲鳴が聞こえた。


「ほえっ。今、何時って六時前じゃん。もう。」


飛び起きた朱里あかりがポスンと枕に頭を置き、布団を被って二度寝する。


「ちょっと見てくる。」


ハー、ラー、スーが欠伸あくびしながら朱里に伝えた。


李社もものやしろおきて破りして、魂をかじられたんでしょ。」


ムニャムニャ。






『李や』は慶長七年創業の老舗旅館。杉並区高井戸一丁目、甲州街道の西にある。


情報収集のため高井戸の高台に李の若木を植え、その東に旅籠はたごを建設。


当時としては珍しく、宿場女郎しゅくばじょろうが一人も居なかったので清廉潔白、品行方正な御仁ごじんに好まれた。



旅籠は旅館となり、現在も営業中。


客室数は九部屋と少ないが、完全禁煙の木造二階建て。『クレジットカードでの先払い制』で一名、一泊二食付きで百五十万円から。


仲居が朝夕、食事を部屋に運んでくれるヨ。




『李社』は独立系裏取屋、『金文屋なかぶんや』のおもて


金文屋が関東における情報収集の拠点として『李や』を建設したが手狭となり、すももの横に立派な石灯籠いしどうろうを据えて転居。


そこがナゼか『旅の神』『薬の神』として崇められ、神格化したのが始まり。



李社は鬼率高めだが、神使は妖狐。


国つ神で在らせられる狼鬼ろうきを守るのは己だと思っているので、こまが据えられるたびに食らい尽くす。


結果、狼狐ろうこは『狛殺し』と呼ばれるようになった。



鳥居の前に『撮影および飲食禁止。違反すれば神罰が下る』と書かれた、英語併記の立て札がある。破ると狼狐のオヤツになるので要注意。


ちなみに魂を齧るダケで、殺しはシマセン。






「おはようございます、狼狐さま。」


「おはようございます、ハラスーさま。」






李鬼神もものおにがみで在らせられる狼鬼、鳴海神なるみのかみで在らせられる浦見もやしろ持ち。


神議かむはかり@出雲に呼ばれるが、二柱とも隠り世公認企業のおさ。特例により宴会不参加だが、神使も大忙し。



狼狐は李社の主神、狼鬼ろうきに。ハラスーは鳴海社の主神、浦見に仕える神使。のんびり出雲観光する暇など無い。


加えて仕置屋と裏取屋は仕事上、関わりを持つ事が多く、同士でもある。






「コイツら、朝っ腹からナニ考えてるんでしょう。」


「ねぇ。」




白人の中年男性、二人組。海パン一丁、頭には水泳用メガネ。首からげているのはスマートフォン。


ほろ酔い気分で女風呂を盗撮する気だったのだろう。ふたの開いた500㎖の缶ビールが二本、賽銭箱さいせんばこの上に置いてある。



コンビニ袋の中には、未開封のカップ酒が四本。レモン味とピーチ味、マスカット味の缶チューハイが二本づつ。


どれダケ飲む気だったんだ?




「おや、コイツら常習犯だ。」


金文屋の番頭、狼徒ろうとがフォルダ内を確認。


「ウチの風呂かい。」


「いいえ、狼鬼さま。撮影されているのは公衆トイレ、エスカレーター。コレは恐らく、ショッピングモールの授乳室ですね。」


変態じゃん。


番屋ばんやに引き渡しましょう。」


狼狐が人の姿に化け、ガラケーを手に微笑む。


「そうだね。石畳につまずき伸びるなら、ビール一口ひとくちでは怪しまれる。だから通報する前にさ、缶ビールの中身を全て、コイツらの腹に流し込もう。」


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