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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
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2-26 元に戻る事は無い


あの犬、私になつかなくて。それで、そう。気が付いたら死んでたの。さとしの目を見て、この子も壊れたんだって思ったわ。


仲間が出来たって、そう思ったの。






「ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい智。お母さまを許して。」



みのるさんが『次は女を産め』って言ったの。なのに生まれたのは男で、『また男か』って言われて。


それで私、私・・・・・・あの子に何をしたの?



授乳するフリをして、あの子の鼻と口をふさいだわ。頭を掴んで胸に押し付けて、バタバタしても力を抜かず、動かなくなるまで離さなかった。


それで、どうなったんだっけ。



「ふふっ、アハハハハァァ。私また殺したの?」


「お母さま?」


「花丸を殺して智を殺して、おなかの子も殺した。殺したぁ。ギャハハ、ギャハハハハ。」


「兄さま!」


妹の叫び声を聞き、部屋に駆け付けたたけしが見たのは、狂ったように笑い続ける母の姿だった。


兄妹は悟る。もう二度と、元に戻る事は無いと。






木曜日の昼。佐藤商事本社、特別会議室。集まったのは役員たち。その多くは佐藤家の者だが、叩き上げ。



「どう思う。」


内内に伝えたい事が有ると、連絡があった。


「会長職を退しりぞく、という事は。」


「無い。いや困る。」


佐藤商事社長、佐藤稔は優秀だが問題が多い人物だ。複数の愛人を囲い、隠し子が数十人居るトカ何とか。


「佐藤専務、お父上から何か。」






いつきは『佐藤商事』専務取締役。


佐藤家の分家筆頭、次期当主。二男一女の父で、長男は大手法律事務所に勤める弁護士。次男と長女は現在、海外留学中。



当主のすぐるは茂の実弟で五歳の時、子宝に恵まれなかった分家の養子となった。佐藤商事を退職後は、のんびり過ごしている。






「本家の事なら少し。けれど身内の事ですので、お話できるような事は何もありません。」


「そうですか。」



土曜日の午後。佐藤本家、当主宅。


本屋ほんおくせがれ一家に明け渡したが、当主の座は譲ってイナイ。だから本屋ではなく、別棟デス。



「急な呼び出しに応じてくれて、どうもありがとう。」


茂と優子が頭を下げる。






幾ら非公式の集まりでもイキナリ、会長夫妻が頭を下げるなんて! と驚いた。


が、そんなの序の口。あの膃肭臍おっとせい、じゃなくて社長。秘密クラブに潜り込み、未成年者に手を出していた。



夫人の妊娠を知った昔の愛人が噂を広め、本家に二十五人も押し寄せたと。


アリエナイ。DNA鑑定の結果、アレの子では無いと判明。が何と、一度遊んで捨てた女を気に入り、囲うと言い出した?






「智を養子にした事は分家一同、納得している。ウチには孫息子が複数いるし、智一人に背負わせる気は無い。だがね、茂さん。稔への処罰、ちとゆる過ぎやせんかね。」


分家筆頭、佐藤俊が切り出す。


「株主総会、やりますか。」


常務が重い口を開く。


「合意の上でしょうが、若い女性の人生を狂わせたんです。取引先や株主の耳に入るのも時間の問題。」




稔は半月の謹慎処分を言い渡され、本屋に居る。ハズだった。


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