2-23 今は令和だ!
玄関に揃えられていた靴の主が誰なのか、尋ねても教えてくれないだろう。だから音がした居間へ行こうと、急いで靴を脱ぐ。
「智さま、お部屋へ。」
スッと、室内履きが出された。
『わんこイン』は革製品だけでなく、綿製品も扱う事になった。その第一弾として発売されるのが、丸洗い出来る室内履き。
乾燥機は使用不可だが、全自動洗濯機で洗濯可能。刺繍は手作業ではなく、機械で入れてマス。
踵の部分は折れるようになっており、突っ掛け草履のように履いたり、靴のように履いたり出来る。
左右どちらにもワンコの刺繍が入っており、ウットリするホド可愛い。
「はい。でも田代さん、ムリそうなら呼んでね。」
「はい。ありがとうございます。」
子どもが出ない方が良い相手なのだろう。こんな時は呼ばれるまで、おとなしく部屋に居るのが一番。
執事の田沼さん、運転手の田中さんも居るし、大丈夫だよね。
「稔。お前は自分が何を言っているのか、分かっているのか。」
茂が大きく息を吐いてから、静かに問うた。
「もちろん理解しています。父上、僕はね。兄弟姉妹が欲しかったんです。だから」
「黙れ!」
「良いのよ、あなた。」
優子が微笑む。
「兄さんはね、あの子は。」
・・・・・・死産児だった。
口元を押さえ、涙を流す妻に黙ってハンカチを渡し、ギッと睨みつける。
「稔。お前には未亜さんとの間に三男一女、愛人との間に儲けた三男一女。八人も産ませたんだ。その養育費、教育費、幾ら掛かると思っている。」
少子高齢化が深刻な日本においてアッパレ、表彰モノである。全員、親の組み合わせが同じならネ。
「八人も十一人も、そんなに変わりません。」
いやいや、大違いだよ。
稔は最初の手術を受けてから二度目の手術を受けるまで、年中無休で繁殖行為に精を出していた。
いつ再開通したのは不明だが、正妻が五人目を妊娠した事が広まったのだろう。『あなたの子よ』と認知を迫る女性が、なんと二十五人も押し寄せた。
DNA鑑定を実施した結果、親子では無いと判明。
ホッとした親族は、作成された一覧表を見てギョッとした。原因は母親と子の年齢。三歳児の母は二十二、二歳児の母は二十、一歳児の母は十九歳など。
はい、アウト!
親子関係は認められなかったが、愛人が暮らす別邸への入居を強く希望している。その中の三人を稔が気に入り、『本屋で受け入れる』と言い出した。
花園寮は二階建て、5LDK。
上野啓子は娘と同室だが、他の三人は一人部屋。息子三人は一階にある大部屋を使用中。空き部屋は無い。
本屋は別棟同様、平屋建てだが7LDK。
夫婦の寝室は二間続き、子供部屋が四つ。残り一部屋は客間として使用中。続き部屋を閉じて愛の部屋に変え、客間と智の部屋を空にすれば問題ナイと考えた。が、それは稔一人の考え。
妻子に大反対され、閃いた。
「明治とか大正とか昔はね、妾を囲って生活の面倒を見るのが当たり前だったんだ。だから」
「今は令和だ! 抑お前、生活費なんて負担して無いだろう。」
稔は本屋にも花園寮にも、一円も入れてイナイ。
「認知済の非嫡出子、四人の学費だって出しているのは愛人だ。違うとは言わせんぞ。」




