2-21 推し
緊急職員会議が開かれ、昴と新一の退学処分が決定。したのだが、金と権力にモノを言わせて捻じ伏せやがった。
蝉塚昴は三カ月、糖谷真一は半年の停学処分。甘い! 甘すぎる。
蝉塚家も糖谷家も弁護士を通し、迅速に動く。
蝉塚家からは借金と慰謝料、合わせて一千万円。糖谷家からは借金と治療費、慰謝料として千五百万円が支払われる。
借金は約三百五十万、治療費もろもろ合わせて約百五十万。『慰謝料』という名の『口止め料』、弾み過ぎ。
まっ、議員先生の息子が恐喝罪と暴行罪でアレされました。なぁんて話が表に出たら、アチコチからフルボッコされて大炎上。
火消し役もタイヘンだね。
「おはよう。」
退院後、初登校。パート2!
特別室に入院中、クラスメイトから花と共に猫屋の羊羹、江戸屋のカステラ、明治屋本店の焼き菓子、文久堂のフルーツゼリーなどが差し入れられ、ビックリ仰天。
もちろん全て、ありがたく頂戴した。
幸子なら感謝の手紙に花の栞を添えるが、智は男の子。いろいろ考えた結果、イニシャル入りのハンカチをチョイス。
智の特技は家事、趣味は刺繍を刺す事。とっても器用なのだ。
「佐藤くん、おはよう。素敵なハンカチを、どうもありがとう。」
クラス委員長、青柳一馬が微笑む。
「気に入ってもらえて嬉しいよ。」
ニコリ。
一馬は不動産会社の社長令息で、運動は苦手だが成績優秀。『真面目メガネ』と揶揄されても冷静に対応するが、四角四面というワケでは無い。
数日前、職員室へ教員を呼びに行く時、廊下を全力疾走したからネ。階段は慎重に、スタスタ下りたヨ。
「実は、ハンカチを見た姉が『結婚式の引出物にしたい』と言い出してね。」
一馬は長男の末っ子。長姉の一枝は、五歳から筝を始めた筝曲家。上野芸術大学音楽学部、邦楽科卒の才媛。もちろん師範。
幼馴染で羽山流家元の次男坊、宗久との結婚を控えている。
次姉、八重は『菫山歌劇団』の男役。芸名は『八重衣融』。
中卒で菫山舞踊学校に入学し、火星で初舞台を踏む。組回りを経て海王星に配属された男役スター候補生。現在、在団三年目。
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「・・・・・・フフッ。」
見合って、思わずクスリ。
「青柳くん! けっ、結婚するのって。ゴクリ。融サマじゃ無いよね。」
菫山歌劇団のファンクラブ会員で、『融』推しの永山華子が迫る。
「イヤァ! 融サマは三星目の若手よ。結婚なんて、まだまだ先の話よ。そうよね、青柳くん。」
同じく『融』推し、美山幸子がニコリ。
「皆さん、落ち着いて。ご結婚なさるのは上の御姉様。そうでしょう、青柳くん。」
同じく『海王星』推し、志村さくらが微笑む。
「志村さんの言う通り、結婚するのは長姉です。今後とも八重衣融の応援、宜しくお願いします。」
女生徒に囲まれ、アワアワしていた一馬。大きな声で告げると、ガバッと一礼。
「良かったぁ。」
キャッキャする女生徒、三人ダケではナカッタ!




