2-20 私は女優
股間を押さえてゴロゴロする新一を、冷たい目で見下ろす智。その横で昴が腰を抜かし、ガタガタ震えている。
最初から見ていたクラスメイトも皆、固まって動けない。
「クラス委員の青柳くん。職員室へ行き、先生を呼んできてください。僕はコレ。この二人が罪を重ねないよう、見張ります。」
「うん、分かった。」
廊下の隅に鞄を置き、タッと走って職員室へ。
「幸子、ごめんね。痛いよね。」
大丈夫よ。ありがとう、ジョン。
「でも、でもバァンって。」
ちょっと当たったケド、頬っぺ腫れるケド大丈夫。相手の動きを察知して、それを受けるようにして倒れれば大事にナラナイの。
「そうなの?」
両親にも千鶴にも全く感謝してナイけど、鍛えられてるからネ。どうすれば早く終わるか、どうすれば軽く済むか、どうすれば逃げられるか、何となく分かるんだ。
「クゥン。」 サチコォォ。
ビックリさせてゴメンね。
被害を最小限に止めるには、アッチに手を出させるしかナイ。
殴られ、首を締められたのは私。じゃなくて智くん。二人とも政治家の息子だから、親が汚い手を使って揉み消すんだろうね。
でもさ、幾ら激甘でも停学処分になるハズ。
先生が来たら女優になるよ。
クラッって感じでヨロッとして、壁にバンっと手をつく。そのままズルズルッと屈んで、流し目で『うっ』と言えばイチコロ。
まず保健室に運ばれ、それから救急車か先生の車で病院に運ばれる。
『念のためにCTを取りましょう』とか『二、三日ほど様子を見ましょう』とか言われ、特別室へ御案内♪
「幸子・・・・・・。」
あらジョン。女はね、生まれながらにして女優なのよ。
「そうなんだ。」
優しく撫でられ、嬉しそう。チョロいぞ、ジョン。
その後、駆け付けた教職員の前で本気を出す。目論見通り緊急搬送され、精密検査を受けた。運び込まれたのは長期入院していた、あの私立病院。
学校から知らせを受け、駆け付けた茂と優子は医師から説明を聞き、智を特別室に入れた。
「佐藤様、申し訳ありません。」
議員センセーが雁首揃え、深深と頭を下げる。
「お引き取りください。」
茂の声が、いつもより低い。
「糖谷さん。智は御子息に、殺されかけたんですよ。」
反撃のため一物を蹴り上げ、潰す気で踏みつけたケドね。
「蝉塚さん。御子息は謝罪したようですが、なぜ殴り飛ばされ、馬乗りで首を締められた智を助けなかったのでしょう。」
・・・・・・。
「お引き取り願います。」
優子が微笑む。が、その目は鋭い。
初等部入学直後から虐められていた。
とはいえ、本人の前で陰口。いや、大きな独り言を執拗に繰り返すダケ。それダケでも十分悪質だが、私物をドウコウされたり、物理攻撃を受ける事は無かった。
暴行が始まったのは三年生、恐喝が始まったのは四年生の連休明け。
クラスメイトは知っていた。知っていて止めなかったのは、その相手が二人とも議員の息子だったら。党首の孫だから。
教職員は根気よく特別指導したが『糠に釘』。が、今回は厳罰に処せられるハズ。




