2-18 レアはレアでも
『コイツらのために家事なんかシナイ』と思ったケド、泣いて感謝されると嬉しい。
ハッ、シッカリしなさい幸子。この家にいるのは花丸を殺し、智くんを死ぬほど苦しめた極悪人。
「冷めたら蓋をして、冷蔵庫に入れてください。上の段に入れてある酢の物は、全て妊婦用です。ご飯を炊くのが面倒なら、無理せずパックご飯に頼りましょう。買い込んで余っても、長期保存可能なので大丈夫。」
「物知りだね。」
尊敬の眼差しを向ける豪。
「ココには四人も暮らしているんです。洗濯物は溜めず、毎日洗いましょう。食器もね。」
「そうするわ。」
素直になった愛が微笑む。
人の本質は簡単に変わらない。一晩グッスリ寝たら、すっかり元通りになるだろう。騙されないぞ。
「では、おやすみなさい。」
逃げるように本屋を出たら、少し離れた場所に田中さんが立っていた。徒歩で『迎えに来てくれたんだ』と気付き、ホッとする。
何も言わないケド、心配してくれたんだね。
智くん。本屋のヤツらはアレだけど、別棟で暮らす人は優しいよ。
私も春日部の家で暮らしてれば、ジョンと一緒に逃げてたら、もっともっと生きられたのかな。
「田中さん。迎えに来てくれて、どうも有難う。」
ニコッ。
「どう致しまして。」
何と言うか、『ジェントルマン』って感じがする。
十代で国際レースに参戦し、三十過ぎまでヨーロッパで暮らしていたんだもん。『侍』より『紳士』って表現がピッタリだよ。
「幸子はボクより、田中さんが好きなの?」
ジョンは私の大切な家族。田中さんは素敵な人だけど、恋愛対象にはナラナイな。今の私、男の子だし。
「そっか。」
そうだよ。
「ボクも幸子のこと、だぁい好き。」
キャッキャうふふ。
九月四日、金曜日。さぁてサテさて、ドウなりますか。
「特売日?」
違うよ。智クンの遺品の中に、借用書とかイロイロあったでしょう。
「アッ、わかった。ナイヨーショーメー、だっけ。」
そうそう。佐藤家の顧問弁護士に依頼して『支払期限、過ぎてるヨ。利子は取らないから一週間以内に借金、一括返済してネ』って内容証明を送ったんだ。
支払い期限は九月一日、十五時。当主宛てに送ったからね。明日あたり、動きが有ると思うんだけど。
「智を虐めてた悪いヤツだね。」
そう、悪いヤツ。ハァ、ガッカリだよ。
「約束は守るために有るのにネ。」
そうだよ。それにね、内進組が恐喝するとかアリエナイ!
学食でポォンと何万も使うヤツらがさ、クラスメイトに暴力を振るって財布を奪ったんだよ。
「悪いヤツだ。」
うん。それにね、智クンの財布は花丸を思って作られた品。しかも『わんこイン』柴犬バージョン、通し番号『一』。
レア中のレア、プライスレスだよ。
「レア! 知ってる、鰹の叩き。ごちそう。ごはんの上に乗っけて食べたよ。とっても美味しかった。」
キュルン。
ワンコだって魚、食べマス。生だとアブナイので、フライパンで焼いてから与えましょう。




