2-13 喜べません
本当に日本か、学校なのか? 迎賓館か何かに迷い込んだ、ワケでは無さそうだ。
「おはよう、智。」
「おはようございます、勝先輩。」
笑顔を貼り付けたまま、眉毛ピクン。
資産家の一人娘に一目惚れされ、婚約させられた勝。養子縁組前だが『花婿修行』のため、佐藤家を出ている。
「まだ怒っているのかい。兄さんが悪かったよ、ごめん。機嫌を直しておくれ。」
そう来たか。
「職員室まで送ってくださいますか。」
ニコリ。どうだ、断れまい。
「喜んで。」
と言いながら、口元ピクピク。その隣で微笑む婚約者、山田華子嬢。
彼女は沢柳学園に通っていたが、『勝サマと同じ学校に通いたい』と両親に訴え、荏原学問所中等部二年に編入。山田家から一緒に通学している。
おやおや、困った困った。視線を感じるゾ。
「ヤな感じだよね。僕、吠えようか。」
吠えちゃダメ。
「うん、吠えない。いろんな匂いがするケド、ちゃんと我慢できるよ。エライ?」
ふふっ。イイコ、イイコ。
「ウッウン。」
「勝さん、風邪ですか。」
「いや違う。そうだ、昼食を共に。」
「嫌です。」
笑顔を貼り付けたまま、勝が智に顔を近づけ囁く。
「報道されていただろう。鈴木テクノロジーの社長一家の、長女に対するアレコレ。」
あぁ、なるほど。
「キャァ。」
黄色い悲鳴、いただきました。
佐藤家の三兄弟、および一人娘は美形で有名。
長男の豪はワイルド系、次男の勝はインテリ系、長女は小悪魔系。
深紅の薔薇を背負っている豪と勝は、制服姿でも煌びやかに見えてしまう。初等部に通う愛は発育が良く、妖しいホド美しい。
一方、三男の智は声変わり前で小柄だが、色白で華奢な美少年。兄妹と違って目に優しく、控え目なので絡まれ易い。
キラキラ組にもイロイロ居るので、要注意。
「佐藤君、おはよう。」
職員室に着いて早早、案内された別室にはクラス委員、青柳一馬が待っていた。
「おはよう。」
と返したものの、『智クンと青柳君、仲良しだっけ?』と首を傾げる幸子。がソコは犬飼い。ニコニコ笑って、その場を遣り過ごす。
一時間目は特別活動、二時間目から通常授業。アッという間に昼休み。
中高一貫なので食堂も共用だが、内進組は合わせて千人以上。大半が弁当持参で登校し、残りは食堂か購買を利用。それでも込み合う。
昼休みは一時間。十分経過したが、勝が来る気配ナシ。
「先に食べちゃおうかな。」
ご飯は食べられる時に食べないと、とっても辛いよ。
「・・・・・・ごめんね。」
幸子は悪くない。いつもボクのためにイロイロしてくれたし、大好きだよ。
泣かないで。ね、ご飯たべよう。きっと美味しいよ。
「うん。」




