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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
36/99

2-13 喜べません


本当に日本か、学校なのか? 迎賓館か何かに迷い込んだ、ワケでは無さそうだ。




「おはよう、さとし。」


「おはようございます、まさる先輩。」


笑顔を貼り付けたまま、眉毛ピクン。




資産家の一人娘に一目惚れされ、婚約させられた勝。養子縁組前だが『花婿修行』のため、佐藤家を出ている。




「まだ怒っているのかい。兄さんが悪かったよ、ごめん。機嫌を直しておくれ。」


そう来たか。


「職員室まで送ってくださいますか。」


ニコリ。どうだ、断れまい。


「喜んで。」


と言いながら、口元ピクピク。その隣で微笑む婚約者、山田華子嬢。



彼女は沢柳学園に通っていたが、『勝サマと同じ学校に通いたい』と両親に訴え、荏原学問所中等部二年に編入。山田家から一緒に通学している。






おやおや、困った困った。視線を感じるゾ。


「ヤな感じだよね。僕、吠えようか。」


吠えちゃダメ。


「うん、吠えない。いろんな匂いがするケド、ちゃんと我慢できるよ。エライ?」


ふふっ。イイコ、イイコ。






「ウッウン。」


「勝さん、風邪ですか。」


「いや違う。そうだ、昼食を共に。」


「嫌です。」


笑顔を貼り付けたまま、勝が智に顔を近づけ囁く。


「報道されていただろう。鈴木テクノロジーの社長一家の、長女に対するアレコレ。」


あぁ、なるほど。


「キャァ。」


黄色い悲鳴、いただきました。






佐藤家の三兄弟、および一人娘は美形で有名。



長男のたけしはワイルド系、次男の勝はインテリ系、長女は小悪魔系。


深紅の薔薇を背負しょっている豪と勝は、制服姿でも煌びやかに見えてしまう。初等部に通うめぐみは発育が良く、妖しいホド美しい。



一方、三男の智は声変わり前で小柄だが、色白で華奢な美少年。兄妹と違って目に優しく、控え目なので絡まれ易い。


キラキラ組にもイロイロ居るので、要注意。






「佐藤君、おはよう。」


職員室に着いて早早、案内された別室にはクラス委員、青柳一馬あおやぎかずまが待っていた。


「おはよう。」


と返したものの、『智クンと青柳君、仲良しだっけ?』と首を傾げる幸子。がソコは犬飼い。ニコニコ笑って、その場を遣り過ごす。






一時間目は特別活動、二時間目から通常授業。アッという間に昼休み。


中高一貫なので食堂も共用だが、内進組は合わせて千人以上。大半が弁当持参で登校し、残りは食堂か購買を利用。それでも込み合う。


昼休みは一時間。十分経過したが、勝が来る気配ナシ。






「先に食べちゃおうかな。」


ご飯は食べられる時に食べないと、とってもつらいよ。


「・・・・・・ごめんね。」


幸子は悪くない。いつもボクのためにイロイロしてくれたし、大好きだよ。


泣かないで。ね、ご飯たべよう。きっと美味おいしいよ。


「うん。」


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