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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
35/99

2-12 ほえぇ


みのるを見限り、キッズ携帯を出してピッポッパ。十数分後、颯爽と現れた別棟の執事、田沼と共に別棟へ。




「ふぅ、ドッと疲れたよ。」


お疲れ様。ねぇ幸子、夕ご飯たべないの?


「あっ、忘れてた。」




トントン。


さとし、お夕飯まだでしょう? 食堂にいらっしゃい。」


「はい。」






本屋ほんおくは洋風だけど、この別棟は和洋折衷の平屋建て。土地が広いと建物も立派だね。



春日部(かすかべ)にある鈴木本家は純、日本家屋。先祖代代お医者だから、蔵には医学書がギッシリ。虫干しするのも一苦労。


手伝いに行くと、いつも江戸屋のカステラを出してくれて・・・・・・。



お爺ちゃん、お婆ちゃん。秀人ひでと伯父さん、優人叔父さん、賢人けんと兄ちゃん、元気かな。


サヨナラ言えなかったケド、もう会えないケドずっと、ずっと元気で長生きしてね。






「あら、お口に合わないかしら。」


「とっても美味おいしいです。」


イケナイ、イケナイ。


「たくさん食べなさい。」


「はい。」






白米じゃなく玄米、具沢山ぐだくさんの味噌汁、酢の物に煮付け。ザ・和食! 料亭の味。美味し過ぎて、ちょっと食べ過ぎちゃった。


ケプッ。



「ふふふ。」


なぁに、ジョン。


「幸子も『食いしん坊なんだな』って、思ったダケ。」


えぇっ! そうだ、ジョンのご飯。


「ボクはね、幸子が『おなかいっぱい』とか『幸せ』って思うと、お腹がイッパイになるの。」


そうなんだ。


「うん、そうなの。」






新学期が始まった。学校への送迎は佐藤家お抱え運転手、田中一郎が担当。


幼少期からF1パイロットを目指していたが、残念ながらシートを得られず、テストドライバーに転身。その座も二年で若手に奪われ、傷心を抱き帰国。



実家で頭を抱えていた時、かつて所属していたカートチームの監督から『旧財閥の佐藤家が、社長つき運転手を募集している』と聞き一念発起。


運が向いてきたと思いきや、不幸にも勤務初日に未亜みあに目をつけられた。



言い寄られたので拒否すると、ナゼか稔から解雇通告。途方に暮れていたら茂に声を掛けられ、会長つき運転手として即採用。現在に至る。






「ほえぇ。」


荏原えばら学問所の敷地内に、通学者用の車寄せが在るのは知っていた。けど、ココまで立派だと思わなかったよ。


自家用車での送迎が認められるのは勿論もちろん、内進組だけ。だが皆が皆、認められるワケじゃない。多額の寄付金をポンと出せる、超弩級ちょうどきゅうの金持ち限定。




停車すると運転席を離れ、安全確認してから後部座席の扉を開く。


「田中さん、ありがとう。」


お行儀よく降り、ニコリ。


「どう致しまして。」


ニコリとして一礼し、運転席に戻った。後続車を待たせちゃイケナイからネ。






建物に入らないと、田中さんが安心して発進できない。だから慌てず、転ばないように注意しながら中へ。


ピカピカに磨かれた車がスゥっと走るのを窓から眺め、心の中で拍手。ユックリと歩き出す。


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