2-12 ほえぇ
稔を見限り、キッズ携帯を出してピッポッパ。十数分後、颯爽と現れた別棟の執事、田沼と共に別棟へ。
「ふぅ、ドッと疲れたよ。」
お疲れ様。ねぇ幸子、夕ご飯たべないの?
「あっ、忘れてた。」
トントン。
「智、お夕飯まだでしょう? 食堂にいらっしゃい。」
「はい。」
本屋は洋風だけど、この別棟は和洋折衷の平屋建て。土地が広いと建物も立派だね。
春日部にある鈴木本家は純、日本家屋。先祖代代お医者だから、蔵には医学書がギッシリ。虫干しするのも一苦労。
手伝いに行くと、いつも江戸屋のカステラを出してくれて・・・・・・。
お爺ちゃん、お婆ちゃん。秀人伯父さん、優人叔父さん、賢人兄ちゃん、元気かな。
サヨナラ言えなかったケド、もう会えないケドずっと、ずっと元気で長生きしてね。
「あら、お口に合わないかしら。」
「とっても美味しいです。」
イケナイ、イケナイ。
「たくさん食べなさい。」
「はい。」
白米じゃなく玄米、具沢山の味噌汁、酢の物に煮付け。ザ・和食! 料亭の味。美味し過ぎて、ちょっと食べ過ぎちゃった。
ケプッ。
「ふふふ。」
なぁに、ジョン。
「幸子も『食いしん坊なんだな』って、思ったダケ。」
えぇっ! そうだ、ジョンのご飯。
「ボクはね、幸子が『お腹いっぱい』とか『幸せ』って思うと、お腹がイッパイになるの。」
そうなんだ。
「うん、そうなの。」
新学期が始まった。学校への送迎は佐藤家お抱え運転手、田中一郎が担当。
幼少期からF1パイロットを目指していたが、残念ながらシートを得られず、テストドライバーに転身。その座も二年で若手に奪われ、傷心を抱き帰国。
実家で頭を抱えていた時、かつて所属していたカートチームの監督から『旧財閥の佐藤家が、社長つき運転手を募集している』と聞き一念発起。
運が向いてきたと思いきや、不幸にも勤務初日に未亜に目をつけられた。
言い寄られたので拒否すると、ナゼか稔から解雇通告。途方に暮れていたら茂に声を掛けられ、会長つき運転手として即採用。現在に至る。
「ほえぇ。」
荏原学問所の敷地内に、通学者用の車寄せが在るのは知っていた。けど、ココまで立派だと思わなかったよ。
自家用車での送迎が認められるのは勿論、内進組だけ。だが皆が皆、認められるワケじゃない。多額の寄付金をポンと出せる、超弩級の金持ち限定。
停車すると運転席を離れ、安全確認してから後部座席の扉を開く。
「田中さん、ありがとう。」
お行儀よく降り、ニコリ。
「どう致しまして。」
ニコリとして一礼し、運転席に戻った。後続車を待たせちゃイケナイからネ。
建物に入らないと、田中さんが安心して発進できない。だから慌てず、転ばないように注意しながら中へ。
ピカピカに磨かれた車がスゥっと走るのを窓から眺め、心の中で拍手。ユックリと歩き出す。




