2-11 ダメだこりゃ
佐藤家の本屋にも、住み込みの家政婦が居た。居たが全員、一月で退職してしまう。
未亜にも愛にも豪にも、家事能力は無い。皆無だ。
「待て智、話し合おう。」
「僕が嫌だと思ったら引き止めず、帰らせる『決まり』ですよね。」
「それは。」
「僕、本屋で暮らせる気がしません。」
「考え直せ。」
「嫌です。」
プイッ。
マズイ、マズイぞ。智が居なくなれば一体、誰が未亜と愛の面倒を見るんだ。
「犬! 智、犬を飼おう。」
「結構です。」
私には愛犬、ジョンが居るので。
「柴でも何でも、好きな犬を選びなさい。」
「犬を何だと思っているんですか。」
「アッ、いや。ソレは・・・・・・。」
鈴木テクノロジーの社長一家が逮捕された。
房総半島沖で発見された身元不明死体が長女、幸子と判明。凶器を持ち出したのは妻、和恵。長女と飼い犬を殺害したのは次女、千鶴。
母娘は幸子を日常的に虐待し、楽しんでいた。それを知って止めるドコロか、一緒に虐待して憂さ晴らししていたトカ何とか。
話を聞いて焦ったよ、ウチと同じだってね。
智は助かったが死んでいたら。同じ敷地に両親が居なければ、いや違う。発見が遅れていたら、今頃。
「智、家庭内別居しよう。」
「ナニ言ってんの。契約結婚ですか、仮面夫婦ですか。子どもの成人後、離婚する予定の熟年夫婦ですか。」
「父さんを助けると思って。」
「あれ、どうしよう。話が通じない。」
「幸子、こんなのポイしよう。別棟にも智の部屋があるんでしょう? そこ行こうよ。きっと楽しいよ。」
そうね、ジョン。でもサヨナラは伝えなきゃ。一匹でたら十匹以上カサカサする、黒くて小さいのと同じ。キッチリ処理しなきゃ、タイヘンな事になるんだヨ。
「そうだね。モクモクを仕掛けて、お出掛けしよう。」
「というコトで皆さん、さようなら。」
「待ってくれ。猫屋の羊羹、江戸屋のカステラで手を打とう。」
「・・・・・・ありえない。そんなので買収できると、本気で思ってるんですか。」
お金持ちってさ、『運転手付き高級スポーツカー』とか『プライベートジェット機』とか、そういうので釣るんじゃナイの?
猫屋の羊羹も江戸屋のカステラも好きだよ。猫屋のは一回しか食べたコトないけど、美味しかったもん。けど、違うよね。
ウケ狙い?
だったらファミリーサイズの『シティ・マダム』とか、『ヒロハタのエクレア』全種類とか、『うんメェ棒』一年分とかの方が、よっぽど笑えるんだけど。
「金か。小遣いを月、コレでどうだ。」
ピース? じゃないな。中一だもん二千、お坊ちゃんだもん二万。いや、まさか二十万?
「なら、コレで。」
二十五って、嘘ぉん。中一の小遣い二十五万って、そりゃイカンよ。一体全体、何に使うのさ。
「本気ですか。」
世の中カネだよ。でもね、金の有難みを教えるのも、親の大事な仕事だと私は思う。
「無論、本気だ。」
ダメだこりゃ。




