2-8 情報ダダ洩れ
佐藤 智の体に、鈴木幸子とジョンが入る事になった。ジョンが入れる体が見つかれば、智の体から出る事になっている。
「・・・・・・ここは。」
病院だよね。やたら広いし豪華だし、応接セットが置いてあるケド、心拍数? 『ピッピッ』ってのが動いてる。
「あぁ、わかった。不祥事を起こして雲隠れする、議員センセー御用達の特別室ってヤツだ。」
お庭より、ちょっと広いかな。
「そうだね、ん。」
ん。
「ジョン?」
なぁに、幸子。
「こっ、言葉が解る。通じてるぅぅ。」
バタバタバタ。ザァッ!
「佐藤さん、佐藤智さん。わかりますか。」
特別室で大騒ぎした事で、看護師が飛んできた。
ナースステーションまで聞こえたワケでは無い。近くを通りかかった看護師が気付き、駆け付けたのだ。
「ドクター呼んできて。」
「ハイッ。」
そっか、智クンの体で生きる事になったんだ。私。
「佐藤さん。」
「はい。」
智が救急搬送されたのは某、医療法人の救命救急センター。
救急隊が現場に到着した時には、意識不明の重体。処置室に運び込まれて直ぐ、心肺停止。何とか持ち直したが意識が戻らず、一年経過。
内臓破裂に肋骨骨折。大腿骨と寛骨に罅が入り、アチコチ痣だらけ。それも全て、服で隠れる場所に集中している。
残酷な待遇を受けていた事は明らか。
医療関係者から『虐待の疑いアリ』と通報を受け、警官が二人来た。が、上からの圧力により退散。
一泊ウン十万の特別室に入れたものの、意識が戻ればドウなるか。本屋組は気が気でなかった。
本気で心配し、回復を願ったのは本家当主夫妻。茂と優子の二人だけ。
「私立病院の最上階、特別室って本当に在ったんだね。議員センセーになった気分だよ。」
パクンとバナナを食べ、モグモグごっくん。
「さすが文久堂の高級フルーツ。濃厚で美味しい。」
パクン。モグモグ、モグモグ。
「房総半島沖で発見された、身元不明死体についての速報です。DNAと犬の首輪に付いていた鑑札から、東京都世田谷区在住、鈴木幸子さん十四歳。犬は鈴木家の飼犬、ジョンと判明・・・・・・。」
パチクリ。
「鑑札つけたまま遺棄したの?」
そうみたい。
「ってかさ、個人情報ダダ洩れなんだけど。」
もっと良いの、使ってよね。
「うん。証明写真は無いわ。」
幸子は優しくて、あったかいモン。あんな冷たくナイ。
「幸子さんはジョンと散歩に出たまま消息不明となり、家族から捜索願が出されていました。警察は何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして、世田谷署に捜査本部を設置・・・・・・。」
遺体は古いカーペットとテントに包まれ、錘を付けて海に遺棄されたと思われる。
血染めのカーペットは、お値段以上の量産品。テントも、身に付けていた品も全て。
女性の顔は潰されており、歯の治療痕から辿るのは困難。反対に、犬の身元は直ぐに判明。
首輪に付いていたロケットに、緊急連絡先を書いた紙がパラフィンに包まれ、入っていたから。
放送終了後、多くの愛犬家が涙した。




