1-3 神不足
仕置屋。御上じゃ晴らせない恨み辛みを、金を受け取って晴らす職人集団。
その歴史は古く、奈良時代まで遡る。現存する最古の仕置屋は『明山会』で、南北朝時代創業と言われているが詳細は不明。
消滅や妖怪化を避けるため、『アイツ嫌い』レベルでも仕置する。
存在を忘れないように付き纏うので、依頼者の多くが泣きながら神社に飛び込み、災厄除け特別コースを申し込む事で有名。
「浦見さま。九丁目の稲荷神社から『悪霊が暴走する前に、清めの儀に加わってほしい』と社憑きが一妖、駆け込んできました。」
一九屋の手代、妖蛇の嘉勝がシュルシュル登場。
「もう一柱は。」
「有松神です。」
「すぐ行く。」
東京はモチロン政令指定都市、県庁所在地も魔窟化している。
政令指定都市で県庁所在地でもある地は、どこも其処彼処から闇が噴き出す闇スポット。もちろん名古屋も、その一つ。
人が集まれば集まるホド、多くの闇が噴き出す。それが濃く深くなって広がれば、生霊が悪霊化して牙を剝く。
だから早めに清めるのだが、神不足が深刻なので難しい。
「ただいま。」
フラフラ、ペタン。
「浦見さま? えっ。嘉勝ぃ。」
崑が叫ぶ。
「はぁい。エッ、お気を確かに。」
裏で仕置や裏取する社は多いが、その大半が『浄化依頼』を受けないと公言。どちらの依頼も受ける隠り世公認、それも優良企業となると極、僅か。
表稼業は鳴海社。別名、縁切り神社。裏稼業は老舗の仕置屋、一九屋。どちらも名古屋に在り、引っ切り無しに依頼が殺到。
浦見は仕置屋の長と国つ神、一鬼二役を熟している。倒れるのは当たり前。
「こんばんは。予約していた、髪皮屋の禄です。」
禄は髪皮屋の長、霊哭の相棒である。
「はぁい、只今。」
一九屋の匠、伊都が出た。
「お待ちして居りました。どうぞ、こちらへ。」
来客対応するのは基本的に、妖怪最強で闇に強い鬼。
伊都は江戸時代、旗本の娘として誕生。
十一代 家斉の治世、大奥に中臈として出仕。年季奉公明けに婚約者と祝言を挙げる予定だったが、御手付きとなる。
簪で喉を突き自害しようとしたら年寄に見つかり、座敷牢に幽閉されて衰弱死。
大奥という名の獄から脱出し、実家に戻ると婚約者が妹、それも義母の娘と祝言を挙げていた。
絶望し、行き倒れていたのを浦見に拾われ、一九屋の丁稚になる。
努力を重ね、技を磨いて匠となった。
「東京も濃いですが、こちらも凄いですね。」
境内は清らだが、外はドロドロのギットギト。禄も鬼なので闇に強いが、辛いモノは辛い。
「そうですね。」
神社は他にも在るが、縁切り神社と呼ばれる社は少ない。その一社が鳴海社。日本全国から多くの人が、藁にも縋る思いで来社する。
つまり、一九屋は出張が多い。
「お待たせしました。」
鳴海社で『清めの力』を持つのは浦見ダケなので、境内にある井戸から清め水を汲み、一気に呷る。
回復してから対象を浄化し、地獄へ送るために。