2-6 そりゃソウだ
桜に勧められるまま送迎車に乗り、代官所へ。歴史を感じさせる建物に圧倒されるも、キョロキョロする事なく堂堂と進む。
さすが御坊ちゃま。案内された特別室で寛ぎ、愛犬を撫でる余裕を見せた。
堅物で知られる代官が直直に面会。寿命が残っているので戻るよう、説得を受けるも断固拒否。
そりゃソウだ。
智は花丸と一緒に転生する事を強く、強く望んでいる。
「智さんの気持ち、とても良く解ります。」
幸子だって、似たようなモノ。
「もしかして智さん、生死の境を彷徨っている・・・・・・のでしょうか。」
「大正解。」
代官所から正式に『寿命が残っている器に入って、頑張って生きてくれる魂が出たら知らせてください』と依頼される事が多い。
こういった特別案件が持ち込まれるのは、決まって神社の系列企業。それも老舗に限られる。
一九屋は江戸時代創業。現存する有料『仕置業』では、日本で二番目に古い。
鳴海社の系列企業なので、依頼料に浄化手数料が含まれる。つまり安心、安全。
有料『仕置業』、日本最古は戦国中期創業の『鬼丸』。複数の子会社を有する老舗だが、金さえ積めばどんな依頼も受ける悪徳企業。
『仕置業』日本最古は『朝山会』で、無料で仕事を請け負う。
南北朝時代創業と言われているが、詳細は不明。古いのは確かだ。消滅や妖怪化を避けるため、『アイツ嫌い』レベルでも仕置する。
存在を忘れないように付き纏うので、依頼者の多くが泣きながら神社に飛び込み、災厄除け特別コースを申し込む事で有名。
神社にとっては有難い? っなワケが無い。結局は神社系列企業に依頼する事になるので、初めから有料の業者に依頼しましょう。
「佐藤智さんは十三歳、荏原学問所中等部一年在学中。幸子さんと同じ学校ですね。」
「一学年四十名、二組しか無いので外部入学組なら。アッ、内部進学組ですか?」
「幼稚部からのネ。」
荏原学問所は私立の総合学園。
同じ敷地内に幼稚部、初等部、中等部、高等部、大学および大学院を併設。特権階級御用達、超がつく金持ち学校だ。
幼稚部や初等部からの内部進学組は旧舎、中等部からの外部進学組は新舎で学ぶ。どちらの校舎も豪華だが、旧舎には堂堂たる威厳がある。
飽くまでも噂だが、食堂のメニューに『伊勢海老の刺身』や、『神戸肉のステーキ』があるラシイ。
中等部内進組は一学年六十名、三組。外進組は一学年四十名、二組。どちらも一組二十名の少人数制。中高一貫校なので、高等部からの編入は帰国子女のみ。
旧舎に入るか新舎に入るかは、実家の総資産額によって決まる。
「あぁ、キラキラ組か。」
制服の素材、意匠も同じなのに『何か』が違う。『オーラ』ってヤツかな。
「クゥ?」 キラキラッテ?
「あの学校ね、中等部編入試験の願書に『親の年収』を書く欄があるんだ。外進組の大半は『特待枠』狙い。特待生は授業料免除、三年間主席なら学資給与。それダケじゃナイよ。海外の名門大学に推薦入学できちゃう。」
キョトン。
「あぁ、あのね。同じ学校に通っていても、内進組と外進組は違って見えるってコト。」
荏原学問所は公家子弟の教育のため、平安京で開講された『西京学問所』が起源。明治時代、現在地に移設され現在に至る。




