2-4 もう昔には戻れない
アワアワする幸子に頭をグリグリし、落ち着かせようとするジョン。
「向日葵。」
朱里が呟く。
「えっ。」
「アッ、すいません。人間だった時に飼っていた犬が、ジョン君と同じゴールデン・レトリーバーで。ウチのは女の子でしたが、その。思い出してしまって。」
「撫でますか?」
「良いんですか?」
「はい。良いよね、ジョン。」
「ワン。」 ドウゾ。
朱里は鬼だが、昭和生まれの人間だった。
外面だけは良い毒親は長男教。偏愛されて育った妹は、加虐趣味を持つ問題児。そんな家族に虐待されて育ったが、飼犬の向日葵だけが味方だった。
その向日葵を庇って頭蓋骨陥没、および臓器損傷により死亡。
命がけで守った向日葵が保健所で殺処分されると知り、愛犬家の夢枕に立って里親を探し回った。
結果、近所の山田さんが引き取ってくれることになり一安心。直ぐ地獄行きを決意するも、悪霊化しており門前払い。
途方に暮れていた時、山田さんの親族に不幸があった。
息子一家が強盗、それも外国人窃盗団により惨殺されたのだ。
心配になり駆け付けた朱里に、山田さんは『息子たちの敵を討ってほしい』と懇願。向日葵を一生大切にする事を条件に受託し、強盗を皆殺しにした。
帰国後ボンヤリしていたらハラスーに保護され、鳴海神に『よくやった』と頭を撫でられ浄化される。
地獄裁判を受け、転生するのではなく『一九屋に就職したい』と直訴。採用され現在、修行中。
「向日葵ぃ。」
ジョンに抱きつき、オンオン泣いた。
最後に向日葵の姿を見たのは帰国後、山田さんに報告しに行った時。悪霊化していたので近づけず、門扉の前で別れた。
浄化後は地獄で服役していたので、向日葵の最期を看取る事が出来なかったのだ。
就職後、同僚に何となく話していたら『会いに行きなさい』と言われビックリ。
長から『特別通行証』と有給休暇を貰い、虹の橋に行ったが『向日葵は転生したよ』と聞かされ脱力。
転生した向日葵はキャリアチェンジし、パピーウォカーに引き取られて幸せに暮らしている。
今の名前はソレイユ。『向日葵』を表すフランス語です。
「ありがとう、ジョン。」
「ワン。」 ドウイタシマシテ。
ハラスーは朱里が泣き止むまで何も言わず、寝そべって見守り続けた。何となく、このまま泣かせた方が良いと思ったから。
ハラスーは前世も、そのまた前世もケルベルスの一体として、死ぬまでバリバリ働いていた。今は一九屋の番犬だが、同時に鳴海社の神使でもある。
優しく撫でられるのも、可愛がられるのも今世が初めて。もう昔には戻れない。
「朱里、そろそろ話そうよ。」
「アッ、そうね。ありがとう、ハラスー。」
犬でも猫でもケルベロスでも、尾は正直だ。三匹のコブラがユラユラ揺れて、今にも歌い出しそう。
「鈴木幸子さん、ジョン君。私たちと一九屋に来てください。」
ニコッ。
「悪い話じゃナイから、安心してネ。」
『ハラスーと愉快な仲間たち』もニコリ。
「えっと、はい。伺います。」




