2-3 大きな商談を控えているのに
着信記録も二回なら無視できるが、連続して十回となると無視できない。溜息交じりに席を外し、十一回目の電話に出た。
悲鳴を上げるように『今すぐ帰ってきて』と繰り返す和恵に、異様なモノを感じる。緊急案件のみ片付け、帰宅した和人は絶句。
最初に浮かんだのは『犬の死体は処理できるが、人間の死体は処理できない』だった。
「何があった。」
分かっている。けれど、他に言葉が出ないのだから仕方ない。
「その、躾を。」
和恵と千鶴が日常的に、幸子を虐待している事は知っていた。が、殺すとは思わなかった。
「パパぁ、コレもう要らない。捨てようよ。」
千鶴は我儘で堪え性が無いが、ココまでヒドイと正直、恐怖を覚える。
大きな商談を控えているのに『妻と次女が、長女と愛犬を撲殺した』なんて知られればパア。
「海に捨てよう。和恵、物置から古いテントを持ってこい。千鶴、カーペットで死体を包め。」
「はい。」
「えぇぇ、メンドクサイ。」
「千鶴!」
あぁ、死んだな。ジョンだけは守りたい。可愛がってくれる人に引き取られて、幸せに暮らしてほしい。
「クゥン。」 ナカナイデ。
頬を伝う涙をペロンと舐め、ジッと見つめる。
「ジョン! えっ、死んじゃったの?」
「ワン。」 ソウミタイ。
お座りしたまま、尾をフリフリ。
慌ててペタペタとジョンの頭や体を触り、異常が無い事を確認。それから己の顔や頭、腹を確認。
「エッと、あれ?」
幸子じゃ無くても混乱する。
「クゥン?」 ドウシタノ?
「ジョン。」
優しくギュッとされ、幸せイッパイ。もう痛くないし苦しくない。幸子も元通り。神様、本当に居たんだね。
「こんばんは。今、宜しいですか。」
「はい?」
ジョンの首に腕を回したまま、幸子がパチクリ。
「私は一九屋の丁稚、朱里と申します。」
「いくや。」
「はい。で、こちらが鳴海神の使い。」
「ハラスーです。」
ハー、ラー、スーが和やかに挨拶。
「もしかして、ケルベロスですか。」
「その名は捨てた。」
スンとした表情でプイッ。
確かにケルベルスとして誕生したが、超がつく未熟児だった。生後三日でポイッと遺棄され、『死んで堪るか』と、気合と根性で体質改善。
コブラを食べて健康体になった怪物は、鳴海社に就職した時、ケルベロスの名を捨てる。
因みに浦見が一九屋の長で、鳴海社の主神と知ったのはナント、御社に到着後。
ハー、ラー、スーは三首で一体。浦見と合わせると『ウラミハラス』となりマス。




