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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
26/99

2-3 大きな商談を控えているのに


着信記録も二回なら無視できるが、連続して十回となると無視できない。溜息交じりに席を外し、十一回目の電話に出た。


悲鳴を上げるように『今すぐ帰ってきて』と繰り返す和恵に、異様なモノを感じる。緊急案件のみ片付け、帰宅した和人は絶句。


最初に浮かんだのは『犬の死体は処理できるが、人間の死体は処理できない』だった。






「何があった。」


分かっている。けれど、他に言葉が出ないのだから仕方ない。


「その、しつけを。」


和恵と千鶴が日常的に、幸子を虐待している事は知っていた。が、殺すとは思わなかった。


「パパぁ、コレもう要らない。捨てようよ。」




千鶴は我儘わがままこらえ性が無いが、ココまでヒドイと正直、恐怖を覚える。


大きな商談を控えているのに『妻と次女が、長女と愛犬を撲殺した』なんて知られればパア。




「海に捨てよう。和恵、物置から古いテントを持ってこい。千鶴、カーペットで死体を包め。」


「はい。」


「えぇぇ、メンドクサイ。」


「千鶴!」






あぁ、死んだな。ジョンだけは守りたい。可愛がってくれる人に引き取られて、幸せに暮らしてほしい。


「クゥン。」 ナカナイデ。


頬を伝う涙をペロンと舐め、ジッと見つめる。




「ジョン! えっ、死んじゃったの?」


「ワン。」 ソウミタイ。


お座りしたまま、尾をフリフリ。



慌ててペタペタとジョンの頭や体を触り、異常が無い事を確認。それから己の顔や頭、腹を確認。



「エッと、あれ?」


幸子じゃ無くても混乱する。


「クゥン?」 ドウシタノ?


「ジョン。」



優しくギュッとされ、幸せイッパイ。もう痛くないし苦しくない。幸子も元通り。神様、本当に居たんだね。






「こんばんは。今、よろしいですか。」


「はい?」


ジョンの首に腕を回したまま、幸子がパチクリ。


「私は一九屋いくや丁稚でっち朱里あかりと申します。」


「いくや。」


「はい。で、こちらが鳴海神なるみのかみの使い。」


「ハラスーです。」


ハー、ラー、スーがにこやかに挨拶。


「もしかして、ケルベロスですか。」


「その名は捨てた。」


スンとした表情でプイッ。






確かにケルベルスとして誕生したが、超がつく未熟児だった。生後三日でポイッと遺棄され、『死んでたまるか』と、気合と根性で体質改善。


コブラを食べて健康体になった怪物は、鳴海社なるみのやしろに就職した時、ケルベロスの名を捨てる。



ちなみに浦見が一九屋のおさで、鳴海社の主神と知ったのはナント、御社おやしろに到着後。


ハー、ラー、スーは三首で一体。浦見と合わせると『ウラミハラス』となりマス。


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