2-2 ゴミ箱に入らない
千鶴が幸子の肩を掴み、ジョンから引き離そうとするが動かない。いや、シッカリと抱きついているので離れない。
「退けよ、クズ。」
姉の後頭部に金属バットを振り下ろす。
「ウッ。」
低く呻いた幸子の目から、光が消えてゆく。
「千鶴ちゃん、ヤ・リ・ス・ギ。」
傍で楽しそうに見ていた和恵が一応、止めに入る。けれど手遅れ。古い絨毯が大量の血を吸い、真っ赤に染まっていた。
「ヒィッ。」
和恵が驚き、後退る。けれど千鶴は鼻で笑い、金属バットで幸子を思い切り叩いた。
「オイ、産業廃棄物。起きろ。」
「起きろって言ってんだろ、クズ!」
幸子の脇から足を入れ、蹴り上げる。
小学六年生の千鶴は健康優良児。中学二年生の幸子は小柄で、酷く痩せている。それでもジョンに強く縋り付いているので、幾ら蹴り上げてもビクともシナイ。
お気に入りの靴下が血で染まっているのに気付き、眉間に皺を寄せた。
「ちょっと信じらんない。どうして呉れんのよ。」
細腕を掴み、グイッと引き上げる。そのまま放り投げ、仰向けになった幸子の腹を思い切り踏んだ。
「謝れ! 土下座しろ幸子。」
和恵は焦った。
ジョンは犬なので、保健所に持ち込めば処分可能。けれど幸子は人間。司法解剖しなくても遺体を見れば、誰だって一目で虐待されていたと気付く。
「千鶴ちゃん、止めなさい。」
「何よママ、いいトコなのに。」
千鶴は幸子が死んでいる事に気付かず、いつも通り執拗に攻撃を加えている。
腹に乗っても顔を踏んでも、関節を叩いても全く反応しない。冷静に考えなくても判るだろう。幸子は、もう死んでいる。
なのに反応しない事に腹を立て、顔面に金属バットを振り下ろした。
グシャッ。
「ギャハハハハ。聞いた? ママ。グシャッて、今グシャッて。」
大笑いしながら何度も振り下ろし、幸子の顔が、己に似た顔が潰れてゆく。その様を見て急に怖くなった和恵は髪を掴み、ガタガタ震えだした。
「イヤァッ。」
母が取り乱す姿を見て、やっと静かになった千鶴。グシャグシャに潰れた幸子の顔に近づき、息をしてイナイ事を確認。
「あぁあ、つまんナイの。」
壊れて遊べなくなった玩具に興味を失い、捨てようとする。
「どうしようママ。コレ、ゴミ箱に入らない。」
和恵は震えながら夫、和人の携帯に電話を掛けた。『仕事中は連絡するな』と言われているが、そんな事を気にしている場合では無い。
「仕事中は電話してくるなと、あれほど」
「今すぐ帰ってきて!」
「は?」
「今すぐ帰ってきてぇぇ。」
耳を劈く悲鳴を聞き、眉間に皺を寄せる。




