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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
25/99

2-2 ゴミ箱に入らない


千鶴が幸子の肩を掴み、ジョンから引き離そうとするが動かない。いや、シッカリと抱きついているので離れない。




退けよ、クズ。」


姉の後頭部に金属バットを振り下ろす。


「ウッ。」


低くうめいた幸子の目から、光が消えてゆく。


「千鶴ちゃん、ヤ・リ・ス・ギ。」




傍で楽しそうに見ていた和恵が一応、止めに入る。けれど手遅れ。古い絨毯が大量の血を吸い、真っ赤に染まっていた。




「ヒィッ。」


和恵が驚き、後退あとずさる。けれど千鶴は鼻で笑い、金属バットで幸子を思い切り叩いた。


「オイ、産業廃棄物。起きろ。」


「起きろって言ってんだろ、クズ!」


幸子の脇から足を入れ、蹴り上げる。




小学六年生の千鶴は健康優良児。中学二年生の幸子は小柄で、酷く痩せている。それでもジョンに強く縋り付いているので、幾ら蹴り上げてもビクともシナイ。


お気に入りの靴下が血で染まっているのに気付き、眉間にしわを寄せた。




「ちょっと信じらんない。どうしてれんのよ。」


細腕を掴み、グイッと引き上げる。そのまま放り投げ、あお向けになった幸子の腹を思い切り踏んだ。


「謝れ! 土下座しろ幸子。」




和恵はあせった。


ジョンは犬なので、保健所に持ち込めば処分可能。けれど幸子は人間。司法解剖しなくても遺体を見れば、誰だって一目で虐待されていたと気付く。




「千鶴ちゃん、めなさい。」


「何よママ、いいトコなのに。」




千鶴は幸子が死んでいる事に気付かず、いつも通り執拗に攻撃を加えている。


腹に乗っても顔を踏んでも、関節を叩いても全く反応しない。冷静に考えなくても判るだろう。幸子は、もう死んでいる。


なのに反応しない事に腹を立て、顔面に金属バットを振り下ろした。




グシャッ。



「ギャハハハハ。聞いた? ママ。グシャッて、今グシャッて。」


大笑いしながら何度も振り下ろし、幸子の顔が、己に似た顔が潰れてゆく。その様を見て急に怖くなった和恵は髪を掴み、ガタガタ震えだした。


「イヤァッ。」


母が取り乱す姿を見て、やっと静かになった千鶴。グシャグシャに潰れた幸子の顔に近づき、息をしてイナイ事を確認。


「あぁあ、つまんナイの。」


壊れて遊べなくなった玩具おもちゃに興味を失い、捨てようとする。


「どうしようママ。コレ、ゴミ箱に入らない。」






和恵は震えながら夫、和人かずとの携帯に電話を掛けた。『仕事中は連絡するな』と言われているが、そんな事を気にしている場合では無い。



「仕事中は電話してくるなと、あれほど」


「今すぐ帰ってきて!」


「は?」


「今すぐ帰ってきてぇぇ。」


耳をつんざく悲鳴を聞き、眉間に皺を寄せる。


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