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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第二部 幸子とジョン
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2-1 誰も助けてくれない 

第二部、スタート!


あぁ、死んだな。ジョンだけは守りたい。可愛がってくれる人に引き取られて、幸せに暮らしてほしい。


願い叶わず死後、愛犬と再会した幸子。神の仰せに従い、智の体を引き継いだ。もちろん愛犬、ジョンも一緒。


座右の銘は『質素倹約』、特技は家事と見切り品の目利き。大型犬の世話と節約術には自信アリ。なのだが、女歴十四年。死んで男の子一年生。


さぁて、どうなる。


怨念を抱かない人など存在しない。他の誰かを羨望し、嫉妬に駆られる。誰かの成功を嫉視しっしし、修羅しゅらを燃やす。


それが身の破滅を招いても、残された家族が凄惨な事件に巻き込まれても止められない。それが人間。



同性の長子を己の分身と考え、しつけと称して虐待する。何をしても許される、全て理解していると思い込み、執拗な攻撃を繰り返すのも人間。






「何とか言ったら?」


服で隠れるトコロを狙って、金属バットを打ち下ろす。




瀟洒しょうしゃな家の一室で毒親、鈴木和恵が長女、幸子を虐待している。幸子の体はあざだらけ。


母方の親族、近隣住人、教育関係者も知っていて動かないのは皆、面倒事に巻き込まれたくないから。




「アンタ、生きてて恥ずかしくないの。」


痛みに耐え、うずくまる幸子の腹を蹴り上げた。


「アタシなら恥ずかしくて自殺するわ。」


和恵が鼻で笑い、幸子の頭を思い切り踏んだ。




身体的・精神的な負担により、歯茎が下がっている。口腔内にクッキリとすじが入り、咬筋こうきんが異様に発達。


毎春、歯科検診のたびに医師から『食い縛り癖を直しなさい』とか、『歯が無くなるよ』と注意されるがソレだけ。




「誰に似たの、アンタ。」


何も言わず、ひたすら耐える幸子。少しでも反応すれば母、和恵からの暴力が酷くなるダケだから。


「頭ダケじゃなく耳まで悪いの、え?」




息をするダケで精一杯。疲労困憊ひろうこんぱいしているので、授業に全く身が入らない。当然、学業成績は最下位。


芸術的才能でも有れば良いが、そんなモノは無く平平凡凡。自己評価も低い。




「ワン、ワワン。」 モウヤメロ、イタイコトスルナ。


閉ざされていた扉を開く事に成功した飼犬、ジョンが勢い良く飛び込んで吠えた。



ジョンはゴールデン・レトリーバーのオス。賢く活発で、従順な性質の大型犬である。



うるさい、駄犬だけん。」


金属バットをゴルフクラブのように振り上げ、思い切りジョンの腹を叩く。


「キャイン。」 ギャァッ。


ジョンの肋骨が折れ、臓器にブスリと刺さった。




周囲の人は誰も助けてくれない。でもジョンだけは、いつだって傍にいてくれる。優しく慰めてくれる。寄り添ってくれる。見つめてくれる。




「ヴゥゥ。」


ジョンが牙を剥き、フラフラと立ち上がった。


「次アタシ! 死ね、駄犬。」


半笑いする和恵から金属バットを手渡された次女、千鶴が瀕死のジョンを滅多打ち。


「死ね! 死ね、死ね、死ねぇ。」




口から泡を吹き、ジョンが動かなくなった。それでも千鶴は攻撃し続ける。血走った目で繰り返し、繰り返し。




「や・・・・・・めて。」


動く度に激痛が走るが構わず、幸子が腹這はらばいでジョンに近づき、おおかぶさった。


「・・・・・て。」


ジョンは、ジョンだけは守りたい。


「はぁ? 邪魔すんなクズ。」


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