1-21 悪い事をすれば
闇にも毒にも強いハラスーの後ろで、ドラが翼を動かしている。傍らに控える鴉虎は交代要員。
火加減が難しいが、ハラスーは神使。ドラは窆氶寺に併設されている、大きな荼毘所の焼き師。
火力調節など、お手の物。
「ギャァァァァァァァァァァ。」
妖怪が持つ不死の力は脆く、短期間に繰り返し使用すれば劣化する事が近年、隠り世で明らかになった。
再生速度が下がれば、それだけ痛みや苦しみが続く。再生しなければ死ねるのに、自動再生されるから死ねない。
「おや。」
鴉塟がポツリ。
「こわい。」
アニスが鴉塟の後ろに隠れた。
ジャックと違い、デズモンドには肉体が有った。その魂はジャックに食われたが、浄化柱に入った事で戻る。
つまりジャックより、デズモンドの方が長く苦しむ。
眼球は角膜と強膜から成る外膜。虹彩、毛様体、脈絡膜から成る中膜。網膜から成る内膜によって壁が構成され、その中には水晶体、硝子体および眼房水で満たされている。
強火で焼かれ、不死の力が発動。完全再生前に焼かれ、不死の力が発動。また焼かれ、不死の力が発動。
コレを繰り返せば当然、水分量の多い部分が不完全になるが抑、人類の体重の60%は水分。体液量は年齢と共に変化し、新生児で75%ほど。
「人も妖怪も悪い事をすれば、必ず罰を受けるんだよ。」
鴉塟がアニスを抱き上げ、優しく諭した。
「マジかよ。」
妖怪犯罪捜査一課に勤める狐憑き、佐久蘭望。通称、本庁のチェリーが呟く。
「何を見つけたんですか。」
新宿区役所妖怪対策室、諸且が問うた。
「これ。」
チェリーがミカン箱から見つけたのは、ズボンを下ろした男が女を襲う写真。組み敷く写真。穢す写真。
「若いな。高校生、いや中学生か。」
諸且の顔が険しくなる。
「この子じゃないか。」
対策室長の三稜草が、閉じられる前のダンボール箱から手帳を出した。
挟まれていたシールに写っていたのは、露出の多い服を着た少女。一緒に写っているのは有望視されている、今平党の若手議員。
「佐久さん。揉み消さず、公表してください。」
・・・・・・。
「仕置されますよ。」
花園組の長、喜兵衛が囁く。
人と妖怪が協力して、押収品をセッセと運び出す。運搬先は警察ではない。
歌舞伎町の現場から押収した物は、新宿区役所別館の特別室。秋葉原の現場から押収した物は、渋谷区役所別館の特別室へ。
「これだけの量だ。『一つや二つ』と思ってるんでしょう? 甘いですよ。現場を仕切ってるのは妖怪、人間じゃアリマセン。」
ハッ!
「解れば宜しい。」
特別指定妖怪団体の長が微笑む。が、その目は冷たい。
歌舞伎町の現場も秋葉原の現場も、人間より妖怪の方が多いのは当然。見える人が少ないから。
けれど一番の理由は、証拠隠滅させないため。
どんなに時間がかかっても必ず家族、親族の元へ送り届ける。そのために警察を監視している、と言っても過言ではない。




