1-18 遺品だけでも
新宿区役所の妖怪対策室長、三稜草清明は陰陽師の末裔。見えないモノが見えるが、式を従える事は出来ない。
黙黙と骸の写真を撮り、白いテープでマーキング。転がっていた酒瓶にグラス、灰皿を撮影中。
因みに歌舞伎町の現場は花園組、新宿区役所妖怪対策室、警視庁妖怪犯罪捜査一課。秋葉原の現場は千駄組、渋谷区役所妖怪対策室、警察省妖怪犯罪局が担当。
『大捕物の最中だから』と破落戸がオイタしないよう、仕置屋がシッカリ見張ってマス。
「悪太郎さん。的の移送、お願いします。」
「はい、お任せください。」
長の鴉塟がシュパッと、魂を切り離した。ソレを死神ファイルに入れ、懐に仕舞う。
妖怪たちが姿を見せているのは、ウッカリ映り込むと心霊写真になるから。応援に駆け付けた傍引、強面軍団も同様。
「ハラスーさん。骸を屋上に、お願いします。」
「はい。」
ガブガブガブっと甘噛みし、クイっと持ち上げタッタッタ。屋上で待機していた鴉虎の前に、スッと下ろす。
「お願いします。」
「はい。」
回収用の大袋に入れ、ゴロンと転がし紐を巻く。
「ドラ、先に行くね。」
「ガウ。」 ハイッ。
ドラは悪太郎の納め師。
その昔、鴉虎が拾ってきた卵を孵化させた新種の飛竜。翼と爪を持つ爬虫類で、口から火を吐くが小柄。鴉虎を親だと思っている。
鴉虎は鋭い牙と爪、自在に飛べる翼まで持つ猛獣。
半妖のジャックは人の目でも見えるが、その骸にはタップリと、ハラスーのコブラ毒が入っている。まだ明るいが、人に見られる事は無い。
「ドラちゃん、大きくなったわね。」
「クルルゥ。」 エヘヘ。
浦見にナデナデされ、嬉しそうに頬を寄せる。
「浦見さま、そろそろ。」
「そうね。ハラスー、いらっしゃい。」
「ハイッ。」
ハラスーは元、冥府の番犬。跳ねる事は出来ても飛べません。だから朧車を利用します。
一九屋の朧車は、漆塗りの牛車。轅の軛を支える榻には、藤の花が描かれている。動力は妖力、牛ではナイ。
車内は広さ十畳ほどで、ハラスーが乗っても大丈夫。
「クゥン。」 シアワセ。
浦見に撫でられ、ウットリするハラスー。コブラたちもユラユラしながら、空の旅を満喫中。
新宿から、窆氶寺が在る奥多摩まで離れている。だから浦見は移動時間を利用して、朱里から渡された簡易報告書に目を通す。
その内容は、思わず頭を抱えたくなるホド酷かった。
『失踪者』では無く『犯罪被害者』だったのだ。
公表するのは当然だが、『犯人は妖怪でした』とは言えない。複数の仕置屋が目を光らせているから、揉み消せばドウなるか解っているハズ。
それでも考えてしまう。今回の事件は大き過ぎる、と。
隠れ家で押収した品、全て被害者の遺品だろう。その大半が身分証明書。あのダンボールの数から、少なく見積もっても数十年分。
いつか帰ってくると信じ、待ち続ける者。中には鬼籍に入る者も。それでも可能な限り、遺品だけでも家族の元へ、送り届けたい。




