1-14 ご立腹
区役所職員でも警察官でも、妖怪関係部署に勤める人は見える人。半分以上は憑物筋、次いで陰陽師や巫覡の末裔。
臨死体験者は少数派。
憑霊には、一時的に他の霊が乗移る『憑き』の現象。遺伝的、伝染的に家系に伝わる『持ち』の現象がある。
乗移る動物霊は狸、狐、蛇、猫、猿、犬、河童などイロイロ。
憑いた人を禍から遠ざけようとアドバイスするが、基本的に悪さはシナイ。
「諦めろ、桜ん坊。」
警察省、妖怪犯罪局に勤める狐憑き。鵯一がニヤニヤしながら登場。
「うるせぇ、ピーチ。」
本庁のチェリーが毒づく。
警視庁の佐久と、警察省の鵯は喧嘩するホド仲が良い。狐同士は喧嘩せず、半分呆れながら見守っている。
「イチャイチャするなら外に出て。あっ、その前に教えて。どうして警察は証拠のハンカチ、妖怪犯罪課とか妖怪犯罪局に渡さず、捨てちゃったの?」
可愛く言っているが、迫力満点。
「それは・・・・・・。」
「その・・・・・・。」
チェリーとピーチが見合う。
「ねぇ、どうして。」
ハラスー、ご立腹。
三匹のコブラが体の前面を直立させ、頸部を頭巾状に広げて威嚇。胴から生える蛇たちもスタンバイ。朱里は黙って、チェリーとピーチを見つめる。
蘭望と一が慌てて助けを求めるが、憑いている狐もダンマリ。
「答えられないんだね。」
朱里が呟く。
「妖怪登録法が施行されたのは明治元年。人の世では国つ神が御力を揮われ、一妖残らず登録済。使用された精密機械は、あのアンリエヌ製。」
ゴクリ。
「人の世の最新機器より高性能。理由は、言わなくても解るよね。」
コクコク頷く、チェリーとピーチ。
「ココに載ってナイの、オカシイよね。区役所に連行された妖怪は皆、パスポートを所持する外国妖怪だった。」
二人ともポッカァン。
「この闇の主はオハイオ州出身、デズモンド・リッパー三十五歳。新宿と渋谷の妖怪対察室に圧力がかかる前に、花園組と千駄組が仕置屋に依頼した。」
二人の顔色が同時に悪くなる。
「多分これまで、複数の仕置屋が仕事したんだ。なのに生きてるってコトは不死。」
キョトン。
「朱里、奉行所に行こう。在日なら妖怪登録している。他の妖怪と融合しても、標本があるから大丈夫。」
「そうね。」
検索終了し、画面の右上にあるバツをクリック。
「失礼します。」
朱里とハラスーが立ち去った五秒後。
「エッ。証拠のハンカチって何だよ、チェリー。」
「知らないよ。ってか何で、入国記録が無いんだよ。」
「知らないよ。ってかコレ、マズイぞ。」
「マズイな。」
二人は花園組へ急ぐ。デズモンド・リッパーに妖怪用の手錠と足枷をかけ、取り調べるために。
しかし遅かった。チェリーは警視庁、ピーチは警察省に戻って上司に報告。緊急対策会議が開かれる。




