1-10 この度の事
隠り世は強腰だが、人の世は弱腰外交。そのツケを払わされるのは国民。
人の世で戦える仕置屋は、被害者か遺族からの依頼が無ければ動けない。
つまり人の世で、依頼される前に動けるのは特別指定妖怪だけ。
「こんにちは。」
新宿区役所の妖怪対策室に清掃屋、赤目の長が現れた。
「青白さま。」
室長、大慌て。
青白は青大将の白子で、御白社の主神でも在らせられる。
無神の祠で冬眠中、ナゼか神格化して記憶操作能力と精神操作能力を得た。無毒だが巨大化すると、精神支配能力も使用可能。
『精神的外傷に苦しむ人を救う』ため、記憶操作能力を持つ妖怪を集めて飲み会を開き、その場で『赤目』を結成。現在に至る。
「不良妖怪による違法百鬼夜行、操作も調査も止められたトカ。横槍を入れたのは霞が関、いや永田町かな。」
「はい。多くの人間が犠牲になったのに、罰金刑で済ませろと。」
妖怪対策室の面面が、黙って拳を握る。
「政治屋や外交官が混じっていれば、目の色を変えて動くだろうに。」
「・・・・・・ハイ。」
一同、唇をキュッと結んで涙を堪えた。
「鬼丸が上手いコトやるだろう。」
「そう、でしょうか。」
「鬼丸が政治屋相手に荒稼ぎするのは、長の鬼助が大名嫌いだからさ。依頼を受けた過激派の大半が、鬼丸グループだった。違うかい?」
複数の子会社を有する仕置屋、鬼丸は戦国中期創業の老舗。
『私怨による返報代行業』で届けている、金さえ積めばどんな依頼も受ける悪徳企業。鬼丸グループ売上一位。
鬼丸グループ売上二位は永田町御用達、昭和中期創業の『山王社』。裏取り調査せず処理するので、二次災害が多発している。日枝神社とは無関係。
鬼丸グループ売上三位は昭和初期創業、『怨霊組』。裏取りはするが証拠を捏造し、追加料金を請求して依頼者を破産させる悪徳企業。
鬼丸グループ売上四位、江戸後期創業の『八丁堀』。裏取りはするが杜撰で、権力者からの依頼を中心に受託。
「この度の事、首謀者は。」
「分かりません。」
「多分、近近また起きる。一九屋は歌舞伎町、悪太郎は秋葉原を調べ始めた。ハラスーも鴉虎も優秀だから、直ぐ何か掴むだろう。」
冥府の番犬、ケルベロスとして誕生したハラスー。兄姉によりエジプトに遺棄されたが、テュフォンとエキドナの間に生まれた怪物である。
コブラを食べて体質改善したので、毒にも闇にも強い。
対する鴉虎は合成獣。
『韓非子』難勢にある『虎の為に翼を傅くること毋かれ、将に飛びて邑に入り人を択りて之を食わんとす』を参考にしたのか、翼を持った虎である。
尾は蝮なので毒に強い。
「歌舞伎町。」
三稜草が呟いた。
「確か髪皮屋さん、『念のため』と報告書を。」
諸且が端末を操作し、ファイルを出す。
「ありました。おや、この闇。」




