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一線  ~譲れないもの~  作者: 醍醐潔
第一部 悪因悪果
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1-1 一九屋

仕置屋。御上じゃ晴らせない恨み辛みを、金を受け取って晴らす職人集団。


その歴史は古く、奈良時代まで遡る。他にも調査や裏取りを代行する『裏取屋』。記憶操作や廃棄物処理をする『清掃屋』があり、全て裏稼業。


今日も誰かが依頼料を持って、秘めた思いを打ち明ける。その仕事、受けましょう。けれど嘘はイケマセン。依頼内容に偽りがあれば、お分かりですね。



愛知県西部にある政令指定都市で、美濃平野の南東端に位置する名古屋。古くは『那古野』と書いた。


もと御三家筆頭、尾張徳川家六十二万石の城下町。中部日本の商業・交通・行政の中心で、中京工業地帯の中核。




「お兄さん。」


お色気ムンムンな女性に声を掛けられ、デレェとする色男。扇子せんすで胸をツンと押され、耳がカッと赤くなった。


そのままツツツとギリギリを攻められ、あごクイさせられ恍惚こうこつとなる。


拳母ころも自動車工業の社長令息、合人はるとさんだね。」


合人の目は、キッチリ隠された胸元にクギヅケ。ゴクリと生唾なまつばを飲み込んだ。


「アッ。」


次の瞬間、扇子からレイピアが飛び出し、合人の心臓を貫いた。タップリ血を吸ってから戻る。




ココは名古屋市緑区。区の中心をなす鳴海なるみ地区は江戸時代、東海道の宿場町として栄えた。つまり多くの女が苦しみ、死んだ土地。




「ココはドコだ。」


馴染みの女とシッポリと、そう思っていたのに。


「地獄の一丁目さ。」


先ほどスーツ姿で声を掛けてきた女が、和装姿で妖艶に微笑んでいる。が、その目は冷たい。


「拳母合人。採用面接を受けた女学生を社名を使って呼び出し、睡眠薬入りジュースを飲ませた上で『内定が欲しければ、わかるね』と集団で慰み物にする様を録画。ソレをネタに脅迫し、飽きたら色街に売り飛ばした。」


「ちっ、違う。」


合人が慌てて否定。


「裏は取れている。アンタ己が『病持ち』だってコトに、うすうす気付いて居るんだろう?」


学生時代から色街に入りびたり、『玄人くとうとに飽きたから』と素人しろうとに手を出した。その結果、多くの女性が罹患。自殺者も出ている。


「楽に死ねると思うなよ。」


合人の足元に闇が広がり、奈落ならくへストン。


「ギャァァ!」


酷く穢れた合人の魂が、飢えた契約獣に食い破られる。もう死んでいるので直ぐ戻り、また食い破られる。


被害者に依頼者の数を掛け合わせ、倍にしたダケ繰り返し。






緑区の一角、かつて遊郭があった場所にある『鳴海社なるみのやしろ』。


鳴海神なるみのかみ悪鬼あっきで悪神。元は人間で江戸時代、人より犬が大切にされていた頃の生まれ。


先妻の娘で名をミツ。当然のように使用人扱いされていたが十歳の時、花街の鳴海屋なるみやに売られてブチ切れ。



男など不要と、かんざしを手に次から次に殺害。簪を奪われると耳や鼻を食い千切ちぎり、飛び込んできた用心棒から刀を奪って大立回おおたちまわり。


四方八方から串刺しにされ、死亡と同時に悪鬼となる。




鳴海屋を根城に構え、視界に入った男を処分し続けた結果、鳴海屋を廃業に追い込む事に成功。違う店が入っても同様。


禿かぶろに読み書き算盤そろばんを叩き込み、就職を斡旋。病に苦しむ女を明るく、風通しの良い部屋に集めて看病。


他の女は可能な限り、落籍らくせきさせた。その全て、妖怪だから出来る事。



浦見は姿を見せられる鬼。女たちから感謝され、力を増す。


このままではマズイと思ったのか、報復を恐れた人間が金を出し合い、鳴海屋跡にほこらが建てられ神格化。


その後『一九屋いくや』を創立し、荒稼ぎ中。






「浦見さま。『髪皮屋はっぴや』のおさから、浄化依頼です。」


『一九屋』の番頭、こんが書類を差し出した。


「おや、珍しい。」


浦見が微笑む。


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